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「会長が、カードを返すようにと言ってたわ」
香澄は父親のことをずっと会長と呼んでいる。カードは俺の名前ではあるが、会社の口座からの引き落としになっている。これを返してしまうと、自由になるお金がほとんどない。
「どうして?」
「余計なことにお金を使わないように、らしいわよ」
ミハルとのことか。カードで支払いを済ませたことを後悔した。深く考えていなかったから。財布からカードを取り出し、テーブルに置く。
「君から返しておいてくれないか」
「いいけど、どうするの?」
どうするの?とは、“このカードがないと生活できないんじゃない?”だから、どうするの?ということだ。
「しばらくはなんとかなる。それからちょっと調べたいことがあるから、家を空けることになる。会長には話しておくから」
「そう、ならいいけど」
1人になりたくなった。家を出て、どこかへ行こうと考えた。もう何もいらないと思いながら、何も持っていなかったことを思い出して1人で苦笑いしてしまう。
___そうだ、ミハルに会ってみようか
これが最後かもしれないと考えたら、ミハルに会いたくなった。俺のことを愛してると言うたったひとりの女。
来週なら会えると言っていた。どうせこれが最後なら存分に恋人気分を味わうことにしようか。
いつもの駅で待ち合わせて、ホテルに入って、甘い言葉で抱きしめる。
「愛してる」
ミハルへのプレゼントに、愛の言葉を囁く。激しくもつれて求め合って昇り詰めていく。
___どんなに愛してると言っても所詮は、不倫相手だ、家族は捨てられないのだ、ミハルは
俺のものだと言いたい衝動に駆られた。このまま奪ってしまいたいと思った。真っ直ぐに俺を見るこの目を、俺のものにしてしまいたい…。