コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「ねぇ見て,可愛いの渋滞.」
“可愛いの渋滞”??と思いつつ,菊田は🌸と同じ方向を見る.そこには,大人数乗りのベビーカーに乗った園児と仲良く手を繋いで歩く園児達の列が.
「ほんとだ.朝の散歩かな??」
いつもの平日は,このような微笑ましい光景を見ることはない.
しかし今日は菊田の誕生日.使うに使いきれない有給を思いきって使って,デートすることを2人で約束していたのだ.
「いつぶりですかね,平日の朝をこうやって2人でのんびり歩くの.」
「ほんといつぶりだろうな.街も空気もいつもより新鮮に感じる.」
出勤するため奔走する人たちを横目に,普段は目に入ってこなかった景色や季節の移ろいを見ながら歩く.
「せっかくだから、拝んでいきません??」
🌸の提案で三社参りの1つとして有名な神社へ.人気の少ない境内に響く柏手の音がとても清々しい気持ちにさせてくれる.
「コーヒー飲みたくない??」
「飲みたいです.」
今度は菊田の提案でカフェへ.突堤を散歩したいということで,テイクアウトしてカフェを出る.
「1回止まろうか??」
「ん,大丈夫.」
と🌸は歩きながら2人のコーヒーを持つ手にスマホカメラのピントを合わせる.
「ここのコーヒーは深煎りの方が美味しいかも.」
「ちょっと飲ませて.俺の浅煎りも飲んでみる??」
お互いカップを交換して1口.
「確かに深煎りの方が良いな.」
「でしょ.浅煎りはやっぱりちょっと酸味が強いね.」
など他愛ない話をしながら,人がまばらで静かな突堤を歩く.
「いやー,静かだな.」
「ですね.」
休憩がてらベンチに座って海を眺める.修学旅行生だろうか,観光船に乗った学生達が手を振っているので試しに2人も振ってみると,有名人でも見たかのような黄色い声をあげて学生達は全力で振り返してきた.
「学生のノリって面白いな.」
「ほんと,青春って感じでエモいです.」
「🌸は,修学旅行で船に乗ることあった??」
「無いですね.杢太郎さんは??」
「俺も無い.」
「せっかくだから今から乗りに行きます??」
「おー.そうするか.」
コーヒーも空になったので旅客ターミナルへ向かう.
「あ,ほら魚いる.」
「どこ??」
「そこそこ.今魚影が見えた.」
「えー??あ,見つけた.」
船が出発するまで,デッキで魚ウォッチング.なんでも,このへんの水域はイワシやタチウオが釣れたりするんだとか.
「いってきま~す.」
動きだすと,🌸は船着き場で見送るクルーに手を振った.
「ちょっと中も散策してみるか??」
「ですね,いきましょ.」
カウンターバーを見つけて地ビールと景色を堪能した2人.
「初めて乗ったけど,良いもんだな.」
「そうですね,また乗りましょ.」
船を降りれば,ランチ探しでひと歩き.
「揚げたて天ぷら旨いな.」
「うん,美味しい.」
開店直後の海鮮居酒屋で日本酒や魚料理を堪能して.
「今度立呑屋行きません??あの商店街の.」
「そうだな.久しく行ってないもんな.」
食後の運動も兼ねて晩ごはんの買い物とケーキ探しをして帰宅した.
「はい,誕生日おめでとう.」
一服終えるのを見計らって,🌸は菊田に誕生日プレゼントを渡す.
「毎年ありがとうな.」
「いえ.高価なものじゃないけど….」
「愛する人から貰うものに安い高いなんて関係ないさ.」
包みから出てきたキーケースを,大切に使うよと口づけしてハグをする.
「明日も有給取るべきだったかな.」
「来年はそうします??」
「そうするか.」
コーヒーが冷めるのも気にも留めず,ブランケットに仲良く包まれて先に寝てしまった🌸を眺めながら,今日1日の尊さを噛み締める菊田だった.