(emside)
「行ってきます。」
ドアを開けると、屈託の無い青空が私のレンズに映し出された。影が濃く彩られた入道雲が夏を知らせる。セミの声が混ざりに混ざって大合唱を始めている。夏の青さが好きだ。だが、暑いのは嫌いだ。前に比べて、最近は夏も悪くないなと思えるようになったのだ。大きな進歩だろう。
まるで当選した政治家のように、堂々と1歩を踏み出した。
あれこれ考えながら歩いていたせいか、少し遅れてしまった。保健室登校の利点は遅れても少しは融通が聞くところだなあ。
着いたところだし、とりあえず本でも借りに行こうか。朝の時間はもう終わったみたいだし。
私は朝の慌ただしさを置いてゆっくりと図書館に向かった。
私の通う高校は所謂マンモス校だ。校舎もデカく廊下が長い。教科毎に移動がある為人の出入りが多く、私は運悪くその波に出くわしたようだ。
私は手のひらに「人」を2回ほど、いや、結構な回数書き飲み込んだ。人の波には呑み込まれたく無いものだ。
角を曲がると、ダラダラと汗を流し、青ざめた顔で壁に突っ伏したゾムさんが居た。
ゾム「昨日ぶりやな」
そう言う彼の声は震えている。彼の口角の上がりきらない笑顔に、いても立っても居られなかった。
「何かあったんですか?」
ゾム「いや、ちょっとな。なんも無いで」
彼の瞳がゆらゆらと揺れている。
焦れったいのは嫌いだ。
「少し青ざめて見えますよ、大丈夫ですか?」
お節介だったかな、と少し後悔する。
ただ、”やらない善よりやる偽善”
と言うように、何でも行動することが大切だろう。
私は速急に彼に近づき、 自分のおでこに手を当てながら、彼のおでこにもそっと手を当てる。
比べて熱を持つ彼のおでこに、自分のした事に意味があるように思えた。
「 やっぱり熱がありますね。保健室行きましょう。」
彼の手首を掴み、保健室まで連れていく。彼は抵抗はせず、すんなり付いてきた。
ゾムさんをベッドに寝かせる。
ゾム「すまん、迷惑かけて。 」
青ざめた顔の彼が、申し訳なさそうに一言こぼす。
「全然大丈夫ですよ。それよりもゾムさんの体調が心配です、」
今年の夏は、日盛りの陽に当てられてバテてしまう人も多い。ゾムさんはいつも、制服の上にフードを被っているので、暑そうだなとは思っていた。
そういえば、図書館に行く途中だった。私は椅子から腰を持ち上げた。
「じゃあ、私は図書館に行ってきます。」
本を片手に、1歩足を踏み出そうとした所で、手首をグンっと引っ張られた。
驚きのあまり、目を見開く。
「どうしました?」
そう聞くと、ゾムさんは一瞬にして顔を紅潮させた。
ゾム「いや、何でもない…」
完全に何かある気がするが、聞くのは野暮だろう。彼も暑さで頭が混乱しているのかもしれない。
「直ぐに戻ってきますから、大丈夫ですよ」
そう言うと、ゾムさんは歯をにいっとして笑った。
ゾム「俺が読みそうな本も借りてきてや」
ゾムさんも同士だったのか!意外と趣味の合う所がありそうだと歓喜する。
「えー、ゾムさんはどんな本読むんですか笑」
ゾム「んー、最近はアクション漫画とかやな、あのアクロバティックな感じがええんや!」
いかにもゾムさんらしい回答に、思わず笑みがこぼれる。
「漫画は無いですから!」
ゾム「あー、ないんか〜。」
「じゃあ、私が好きな本を紹介しますね。」
そう言って、今度こそ、と1歩目を踏み出す。
ゾム「おう、行ってら」
「行ってきます!」
私は、 声のトーンをひときわ明るくさせて答えた。
ゾムさんにどんな本をおすすめしようか。気に入ってくれるといいなあ。
額は、謎の熱を帯びていた。
コメント
2件
ほのぼのしてる四流かわいい😆 続き楽しみにしてます!