「うわうわ,黒川またいるんだけど。」
あれは中3の夏でのことだった。
私,鈴木芽依《すずきめい》はいわゆる陰キャだ。休み時間はいつもひとりでいたし,学級文庫は全部読破してる。
「え?あぁ,」
「黒川って結構警察にお世話になってるらしい。」
黒川榎煉《くろかわかれん》。学校一の不良であり私の幼馴染。昔はあんなんじゃなかったのにな,と思いながらも友達とその横を通り店に入る。
「あぁ言う陽キャって嫌だね。」
「う,うん。そうだね。」
ぶっちゃけ自分は陰キャと陽キャの区別がわからない。そう思ってる自分は自分で自分を陰キャに分類しているんだけど。
ザァァァァ…
「えっ,雨!?」
友達とカフェでコーヒーを飲んでいたとき,雨が降ってきた。
「じゃ,これ飲んだら解散しようか。強くなったら嫌だし。」
「うん,そうだね。」
数分後,私と友達はコーヒーを飲み干し,店で別れた。雨の音がだんだん強くなってくる。鞄を漁っても傘はない。
「どうしよ。」
朝,天気予報では一日中晴れと言っていたのに。店のベンチに腰掛けながら雨が止むのを待った。
「芽依じゃん。」
「え?」
少し濡れたベンチに座っていると榎煉が通りかかった。
「う,うん。」
「傘…無いの?」
「うん。」
数秒の沈黙があったが,榎煉が私に傘を向けてきた。
「傘,入れよ。」
「えっ?」
榎煉はそっか,といい人には見せない笑顔を見せてくれた。
「相合傘になるもんな。じゃ,傘貸すから。明日返してくれればいい。」
受け取れない,と手で表すと榎煉はいいからと言って傘をたたみ,私に渡し,そのまま行ってしまった。
「じゃぁ…使わせていただきます。」
真っ黒で大きな傘を私は開き,そのまま家に帰った。
次の日,私は榎煉に傘を返すため傘を学校に持って行った。
「あれ,鈴木。今日雨降るっけ?」
「違うよ,傘返すから持って来ただけ。」
「あ,そう。」
しかし,どれだけ待っても榎煉がくることはなかった。どうしたんだろう,そう思い私は放課後に榎煉の家に向かった。
「あら,芽依ちゃん久しぶりね。どうしたの?」
「昨日榎煉に傘を借りたんで返しに来ました。」
「あら,あの子が?今ね,榎煉熱出てるから。…あ,見に行ってあげたら治るかもしれないわ。うちの子バカだから。」
昨日の雨に濡れてきっと風邪ひいたんだ。傘を返すついでにあげようと思ってたリンゴもちょうどいい,お見舞いとして渡そう。榎煉のお母さんに連れて行かれるがまま榎煉の部屋に来た。
「だから…入ってくんなって…。」
「へぇ,馬鹿でも風邪ひくんだ。」
ベットには布団に包まって丸まっている可愛い榎煉がいた。
「なんで居るんだよ。」
「傘。」
「そっか。…風邪,うつるから帰って。」
これが,私と榎煉が付き合う始まりだったのかな。
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