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だが、そんな男の末路などどうでもいい。
俺の目的は、あいつを罰すること以上に
アデレードの心にある不安を根源から断ち切り、彼女の世界を再び清浄に保つことにあった。
朝日が寝室の窓を叩き始める頃
俺は再び、最愛の彼女の元へと戻った。
乱れたシーツの中で、アデレードがゆっくりと、微睡みから目を覚ます。
不安げに揺れるその瞳と視線が合った瞬間
俺の胸の中を支配していた凍てつく氷は、一瞬で春の陽だまりのように溶け去った。
「おはよう、アデレード。……よく眠れたか?」
ベッドサイドに腰掛け、彼女の火照った頬を優しく掌で包み込む。
「イグニス…ええ。おかげさまで……でもっ、あの…昨晩のこと…変な噂になっていないかしら。心配で……」
目覚めて一番に、怯えるように聞き返してくる彼女。
そのあまりの健気さに、俺は嘘偽りない慈しみを込めて微笑んだ。
「……ああ。バルトンという男だが、どうやら隠していた数々の不祥事や不倫が、昨晩一気に露呈したようでな」
「えっ」
「夜明けを待たずに爵位を奪われ、追放されたそうだ」
「ひ、一晩で…?」
「ああ、おかげでアデレードや俺に関する変な噂なんて立つ隙もなかった。安心してくれ。あいつはもう、この国にはいない」
俺の言葉に、アデレードは驚いたように目を見開き
それから心底安堵したように「……よかった」と深く息を吐いた。
彼女は知らない。
俺が寝る間も惜しんで仕掛けた冷酷な制裁の結果だということも。
きっと、彼女が聞いたら「わたしのためにそこまでしてくれたの…?」とか「ごめん、私のせいで…」なんて責任を感じてしまうんだろう。この子は、優しすぎるから、俺が守らないといけない。
そして彼女を泣かせた代償が、一族の破滅であったことも知らしめる必要がある。
「じゃあ…イグニスは? 嫌な気持ちになったでしょ?まだ、申し訳なくって……」
どこまでも自分より俺の評判を気遣うこの愛らしい妻を、どうして離すことができるだろうか。
「…昨日も言った通り、君に対して怒ってなどいない」
「本当に?」
「……まあ、死ぬほど嫉妬はしたが」
「…やっぱり、まだ怒ってる?! ご、ごめんねイグニス……!」
慌てて俺の腕を揺さぶるアデレード。
その柔らかな感触、焦ったような必死な顔。
すべてが愛しくてたまらなくなる。
俺は思わず吹き出してしまいそうになりながら、努めて冷静を装って彼女を覗き込んだ。
「ふっ、冗談だ。だが……昨日の『上書き』じゃ、俺は全然足りないな。一週間も我慢したんだ。今日は一日中、たっぷり触れてもいいだろ?」
「っ! もう、こっちは真剣なのに……っ! もう触ってるし……イグニスのバカ!」
ぷぅっと膨れるアデレードの頬。
胸をポカポカと叩く彼女の手は、全く痛くないどころか、俺の心をさらなる熱で満たしていく。
俺は抗議する彼女の声を甘いキスで黙らせ
再び彼女を、逃げ場のない柔らかな快楽の海へと沈めていった。
アデレード、君を泣かせるものは、この世界に存在してはいけない。
たとえ俺がどれほどの手を汚そうとも
君の隣では、ただ君を愛し抜く一人の男であり続けよう。
そう、静かに苛烈に誓った。
紫陽花