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あの騒動から数日────
バルトン男爵が社交界から跡形もなく消え去り
平穏を取り戻したはずの王宮で、私の心だけがずっと、落ち着かない熱を帯びていた。
一週間の「接近禁止」という呪縛が解け、イグニスの溺愛は以前にも増して苛烈になっている。
隙あらば抱き寄せられ、甘い言葉を注がれる日々。
けれど、私は知ってしまったのだ。
彼がいない夜の、肌を刺すような凍える寂しさを。
そして、その寂しさに耐えかねて
自分でも信じられないような破廉恥な真似に手を染めてしまった、あの夜の背徳感を。
◆◇◆◇
その夜、私はイグニス様が執務を終えて戻るよりも早く、彼の寝室へと足を運んでいた。
一人で主を待つ寝室は広く
秒針の刻む音が心臓の鼓動と重なるほどに大きく、長く感じられる。
やがて、重厚な扉が開く音が静寂を破り
愛しい人の、清涼でいて情熱的な気配が部屋に満ちた。
「……アデレード?こんな時間に、どうしたんだ」
着替える間も惜しんだのか、まだ軍服の襟を緩めたばかりのイグニスが、驚いたように目を見開く。
私は彼の真っ直ぐな視線をまともに見ることができず、指先をぎゅっと握りしめて、俯いたまま震える声で言葉を絞り出した。
「イグニス、今夜、その……シたい、んだけど……っ」
「…………」
静寂が、何倍にも膨れ上がったように感じられた。
顔が火を噴くように熱い。心臓がうるさすぎて
自分の声がちゃんと届いたのかさえ不安になる。
モジモジと裾を弄る私の前に、ゆっくりと長い影が落ちた。
イグニスが、逃がさないと言わんばかりの至近距離まで近づいてきたのだ。
「…まさか、アデレードの方から誘ってくれるなんて……意外だな」
少しだけ揶揄うような、けれど隠しきれない歓喜が混じった低い声。
「…わ、私ね……!いつもイグニスが当たり前のように嬉しいことを言ってくれて、たくさん愛してくれるから…それに、慣れちゃっていたのね」
私は震える声で、せき止めていた胸の内を必死に明かした。
「本当は……一週間の間、イグニスに触れてもらえなくて……すっごく、寂しかったの…っ」
「アデレード……」
「あなたがいない夜が、あんなに寒いなんて知らなかった。だから……」
彼を見上げる視界が、恥ずかしさと愛しさでじわりと潤む。
私はもう、自分の中の汚れた秘密を抱えきれなくなって、最愛の夫にすべてを白状することにした。
「……寂しくて、我慢できなくて…ひとりで、えっちもしちゃってたの……っ」
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紫陽花