テラーノベル
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正直に言うと、最初はほんとに気のせいだと思ってた。
仁人がスマホ見る回数増えたな、とか、通知来るたびに一瞬だけ顔が強ばるな、とかその程度で、仕事してりゃそういう時もあるだろって…
俺も実際そうだったし。
楽屋でソファに並んで座ってる時も仁人はいつも通りだったし、笑う時だって、いつもの呆れた顔で笑ってた。
ただ、俺の肩に寄りかかってくる時間がいつもより少しだけ長くなった気がして、それが嬉しい反面、どこか引っかかってた。
「ねぇ勇斗」
『ん?』
「最近さ、ちょっとめんどい人がいて」
スマホから目を上げて、仁人の方を見る。
“めんどい人”って言い方する時の仁人は、大体もう限界に近い。
『仕事の人?』
「うん、前にドラマで一緒だった人、覚えてる?」
『あー…あの、やたら距離近かった人だろ?』
「そうそう」
名前を出さなくても分かる程度には、印象に残ってる。
現場でやたら話しかけてきて、ボディタッチもギリギリ冗談っぽく誤魔化せるラインを踏んでくるタイプの人。
でもその時は、俺も周りも「まあこういう人もいるよな」って流してた。
仁人にベタベタ触ってた時は流石にカッチーンってなりそうだったけど…なんとか営業スマイルで乗り切った。
「いやぁ…最初はさ、普通に仕事の連絡だったんだよ」
『うん』
「台本のこととか、現場のこととかさ、でも最近、関係ない話ばっかで」
仁人はそう言いながらスマホを伏せる。
その動きがやけに早かった。
『返さなくていいんじゃね?』
「それが出来たらそうしてますよ。でもそれがさ、返さないと現場で何言われるか分かんなくて。返さなかったら返さなかったで、次の現場のときめんどくさいじゃん」
胸の奥に少し嫌な感じが広がる。
仕事相手だからこそ、完全に拒絶できない、その微妙な立場を上手く利用されて。
『まあ…一回ちゃんと線引きした方がいいかもな』
「そうだよね」
そう言いながらも、仁人の声はどこか弱かった。
その日の帰り道、二人で並んで歩いてる時、仁人のスマホが震えた。
画面がちらっと見えて、俺は無意識に視線を落としてしまう。
「今日もかっこよかったね」
一瞬、頭が追いつかなかった。
ほんとに仕事の感想か?
この一文で変な憶測立てんのもダメだけど…
でも…にしては、ちょっと緩くね?
『だいじょぶか?』
「ん〜…笑」
仁人は苦笑いしながら言ったけど、目は笑ってなかった。
『俺から言おうか?』
「え、いやいいよ」
『別にガツンと言うんじゃなくて、冗談っぽくさ。ちょっとは変わんじゃね?』
正直、この時点ではまだ本気で危ないとは思っていなかった。
だからこそ、軽く済ませようとした。
それこそ、軽く、冗談っぽく言ったら無くなるだろ、くらいに思っていた。
次の現場で、その人とすれ違った時、俺は笑顔で声をかけた。
『あぁ〜!ちょっと〜!仁人に変な連絡送るのやめてくださいよぉ笑怖いっすよー?笑』
場の空気を壊さないように、冗談っぽく、あくまで軽く。
相手は一瞬だけ驚いた顔をして、それからニヤッと笑った。
「心配しすぎだよ、可愛い後輩だからついね笑」
その言い方が、妙に引っかかった。
でもその時の俺は、それ以上踏み込まなかった。
踏み込まなかったことが後悔することになるなんて、その時は思ってなかった。
その日の夜、仁人から短いメッセージが来た。
「さっきからまた連絡きてる」
画面を見つめながら、胸の奥がじわっと重くなる。
これはもう、気のせいじゃないだろう。
『今日俺ん家おいで』
打ったその一文に、仁人はすぐ既読をつけた。
「分かった」
コメント
3件
逆バージョン書いて下さりありがとうございます🙇♀️ 続き楽しみにしています😊