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#残酷な描写あり
らい
148
37
#パンデミック
畝澄ヒナ
48
“召喚の儀”は皇帝にとって、より強固な称号を得るためのものだが、一人の男としては生涯の伴侶を召喚する命懸けの儀式でもある。
召喚の儀を行うことは義務ではない。そのため歴代皇帝の中で挑む者は、ほとんどいなかった。
けれどアルビスは切実な理由があり、儀式に挑んだ。
夏の強い日差しが和らいだ初秋のある日、アルビスは最低限の立会人がいる神殿で300年前から変わらない魔方陣を描き、呪文を詠唱した。
詠唱を終えた途端、まばゆい光が魔方陣から溢れた。この場にいた全員が眩しさに耐えきれず目を閉じ、再び目を開けた時には一人の少女が立っていた。
事が成功すれば、なんとあっけないものだろう。
魔力を使い果たしたアルビスは、そんなことを思いながら背を向けている少女──佳蓮の正面にまわった。
佳蓮は乱れた胸まである黒髪を直すこともせず、真っ直ぐに自分を見つめた。
(悪くない)
アルビスはそう思った。
ポカンとした間抜けな表情も、華奢な体型も、物怖じしない態度も、勝気な黒い瞳も、どれも悪くないと思った。
漠然としたその感情に、それから何度もアルビスは振り回されることになる。
佳蓮の不貞腐れた表情を目にしたとき、突拍子もない行動を見せられたとき、自分が与えた衣装を身に付けてくれたとき。
やりきれない思いや、虚無感に襲われたときでさえ、心のどこかでは悪くないと感じていた。
アルビスにとって”悪くない”という言葉は「愛しい」という気持ちと同じだった。
佳蓮の声を聞き、視線を交わす瞬間だけ、アルビスは自分の心臓がどこにあるかはっきりとわかる。
トクトクと規則正しく脈打つそれは、自分が傀儡ではなく一人の人間だということを教えてくれる。だからアルビスは、佳蓮のことを心から大切にしたかった。自分の命より大事な存在だった。
たとえ佳蓮が自分に気持ちを向けてくれなくても、ずっと守り慈しみたいと思っていた。
けれどアルビスは、自らの手でその想いを壊してしまった。
たった一言、佳蓮が他の男の名を紡いだだけで、いとも容易く理性の|箍《たが》が外れてしまったのだ。
身勝手な空間に押し込め、泣き叫ぶ佳蓮を組み敷いて、思うがまま折れてしまいそうな細い身体をむさぼった。飼い慣らせないほどの怒りと欲求が、自分の身体を支配した。
小動物のようにただ怯え震えることしかできない佳蓮の姿が憐れだと思う反面、その姿を見て嗜虐心を煽られている自分を確かに感じていた。
誰も触れていない無垢な身体を汚したことに暗い喜びで満たされ、アルビスは愉悦の笑みを浮かべていた。
あの時──アルビスは、一人のどうしようもないクズで最低な人間という自覚を持って、愛しい女性を無理矢理抱いてしまった。
だからアルビスは、辛い決断を己に下すことにした。
皇帝陛下としてではなく、一人の男として。
*
翌朝、アルビスはまだロダ・ポロチェ城に留まっていた。
やるべきことを済ましたら、すぐにリ視察中のフィドーロに戻る予定だ。長居をするつもりはない。
昨日アルビスは、逃亡しかけた佳蓮にどこに行きたかったのかと問うた。返ってきた言葉は、あんたが居ないところ。
望み通りアルビスは、佳蓮を離宮から出すことに決めた。
それはアルビスにとって身を斬るほどの辛い決断だが、佳蓮へのせめてもの贖罪だった。
コメント
1件
ああ〜〜、第34話、読み終えたよ……!!!😭💔 今回はアルビスの内面がめちゃくちゃ深掘りされてて胸が苦しい…。「悪くない=愛しい」っていう表現、静かで狂おしいほどエモいよ…。自分の理性が壊れて佳蓮を傷つけた後の、贖罪として彼女を手放す決断、重すぎるよ…。皇帝じゃなくて“一人の男”としての選択っていうのがまた切ない。でもそれでこそ彼の人間らしさが出てる。二人がどうなるのか、もう次が気になって仕方ない!!📖💦