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フィッツクランスに入学して数年が経ったある日、班を作って行う授業があり、あたしはディートヘルムと同じ班になった。
「ビアンカ、久しぶりだね。元気だった?」
フィッツクランスに入学してからディートヘルムと話したことはなかったし、何より彼から話しかけてくれて、この上なく嬉しかった。
嬉しかったはずなのに。
「気安く話しかけないでくれる?あんたとあたしは違うのよ」
ああ何でこんなことを言ってしまったのか。
昔のあたしを殺したい。
ディートヘルムは当然ながら悲しそうに顔を歪ませた。
「……ごめん」
それからディートヘルムとあたしの間にあった溝はさらに深まり、距離は遠のいた。
さらにディートヘルムを傷つけたことで一部の女子たちに目をつけられた。
いじめの日々が始まったのだ。
あたしに暴言を吐いたり、からかったり、あたしの私物を隠したり、手を上げたり。
卒業まで続いた。
でも全部自業自得。
ディートヘルムにあんなことを言ってしまったことを心から懺悔した。
そんなあたしでも、勉強だけは頑張っていた。
筆記でも実技でも、試験ではいつも一桁を取っていた。
ディートヘルムに敵うことはなかったけど。
そしてあたしたちは十八歳でフィッツクランスを卒業した。
ディートヘルムは首席で卒業した。
彼は国仕魔法使いになるという夢を掲げ、卒業後は大学で研究に携わると聞いた。
ディートヘルムを傷つけたあたしに当然彼と一緒にいる権利なんてないので、あたしはアースキン家に戻って爵位を継ぐための勉強を始めた。
少しずつ次期伯爵としての仕事を担い出し、あたしは淡々と毎日を過ごしていた。
卒業から三年ほど経ったある日、仕事で王都を訪れた。
用事を済ませ、さて帰ろうかと馬車に乗ろうとした時、それは起こった。
「ど、ドラゴンだー!」
耳をつんざくような悲鳴が聞こえた。
見ると、数匹のドラゴンが王都の上を飛び回り、火を吹いていた。
町は大混乱に陥った。
考えるより先に身体が動いた。
あたしはドラゴンに攻撃魔法を放った。
ドラゴンは多少出血するが、大して効果はない。
あたしだけではキリがない。
どうすれば……、と頭を回していた時、攻撃を放つもう一人の魔法使いを見つけた。
ディートヘルムだった。
ディートヘルムはあたしに気づくと、こっちに駆け寄ってきた。
「ビアンカ!協力しよう!」
驚いたが、あたしは躊躇わず頷いた。
あたしは防御魔法で町を守り、ディートヘルムはひたすらドラゴンに攻撃を放ち、彼らに元の場所へ帰るよう促した。
しばらくの戦いの末、ドラゴンは全員帰っていった。
「良かった……」
ディートヘルムはあたしの隣で呟いた。
と、彼はあたしの方を向いて、にっこりと笑んだ。
あたしは驚いた。
「君がいなければ町は無事じゃなかった。ありがとう、ビアンカ」
昔と変わらない、屈託のない笑顔。
あたしは懐かしさを覚えた。
あんなに酷いことを言ったのに、ディートヘルムは笑顔を向けてくれた。
どうして笑顔を向けてくれるのだろう。
どうしてそんな優しくしてくれるの?
……あたしは、本当に馬鹿だ。
あたしはディートヘルムに向き直り、頭を下げた。
ディートヘルムはぎょっとした。
「あんな態度を取って、本当にごめんなさい」
心からの謝罪をやっとできた。
許されるとは思っていない。
けれど、謝罪だけでもしたかった。
ディートヘルムは固まったが、少しして口角を上げた。
「いいよ、もう過ぎたことだから。昔と同じように、仲良くしよう」
やわらかい声音。
顔を上げると、彼は朗らかに笑んでいた。
彼を突き放したくせに、あたしはまた彼の笑顔と優しさにときめいてしまうのだ。
ああ、あたしは今でもディートヘルムが好きなのだ。
こんな自分が許せない。
あたしだけは、あたしを許さないでおこう。
あたしは少し笑んだ。
「……ありがと」
ディートヘルムも笑みを深めた。
こうしてディートヘルムとあたしは、ドラゴンを退治したことを称えられ、国仕魔法使いに任命された。
ディートヘルムは念願の国仕魔法使いになれて心底嬉しそうだった。
聞けばディートヘルムは大学の研究で成果を出して国仕魔法使いになろうとしたようだが、まさかこんな形でなれるとは思っていなかったそうだ。
あたしだって魔法使いの最高位である国仕魔法使いになれるとは思ってもみなかった。
誰が予測できたろう。
魔法は元々好きだったからそれも相まって嬉しかった。
あたしはディートヘルムと共に、魔法使いとして頑張ろうと決意したのだった。
「……ンカ。ビアンカ」
ビアンカはディートヘルムの声で目を覚ました。
机に伏していた頭を起こす。
彼は少し笑んでいた。
「珍しいね、居眠りなんて。定時までもう少しなんだから、一緒に頑張ろう」
ビアンカは寝ぼけ眼でディートヘルムを見つめる。
ディートヘルムはいつも通り優しく、穏やかだ。
居眠りなんてありえない。 ただでさえ仕事が多いのに。
なんて怒らない。
嬉しいのに、ビアンカはなんだか悲しい気持ちになった。
「……ええ」
ディートヘルムにそう返事して、ビアンカは机に向かった。