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昼過ぎの廊下。
ケアテイカーは資料を抱えながら、誰かと話している。
「なるほど……それは大変でしたね」
穏やかな声。
話し相手は別の仲間だ。
「ケアテイカーってほんと優しいよな〜」
「いえ、私は大したことは」
「いやいや、さっきの助言めちゃ助かったって」
「お役に立てたのなら何よりです」
柔らかい笑顔。
その光景を――
少し離れた壁にもたれて、タウントが見ていた。
「……」
腕組み。
無言。
通りかかった仲間が気づく。
「タウント何してんの」
「別に」
目線はずっとケアテイカー。
「見てるじゃん」
「見てねぇ」
でも見てる。
めちゃくちゃ見てる。
その間にも会話は続く。
「今度また相談していい?」
「もちろんです。いつでもお声がけください」
「ほんと?助かるわ〜」
タウントの眉がぴくっと動く。
「……いつでも?」
ぼそ。
「なに?」
「別に」
向こうでは笑い声。
「ケアテイカーって距離近いよな」
「え」
「いや今めっちゃ顔近くなかった?」
タウントのこめかみに血管。
「近くねぇだろ」
「近かったって」
「気のせい」
でも目は鋭い。
その時。
ケアテイカーがふとタウントに気づく。
「あ」
小さく手を振る。
「タウントさん」
それだけで表情が少し柔らかくなる。
仲間が振り向く。
「あ、タウント」
「……」
無言で近づく。
ケアテイカーは嬉しそうに言う。
「ちょうどよかったです」
「なにが」
「先ほどお話していた件なのですが」
横の人を見て説明する。
「タウントさんも詳しいので」
タウントの眉が上がる。
「は?」
「タウントさんは運動能力が高いので、実践的な意見がいただけるかと」
隣の人が笑う。
「お、頼りにされてんじゃん」
タウントはちらっとケアテイカーを見る。
「……別に」
「そう照れないでください」
「照れてねぇ」
ケアテイカーは気づかない。
「タウントさんはとても頼りになります」
さらに追撃。
横の人がニヤニヤする。
「へぇ〜」
タウントの耳が赤くなる。
「……お前」
小声。
「はい?」
「そういうの、他のやつにも言ってんの」
ケアテイカーは首を傾げる。
「どういう意味でしょう」
「頼りになるとか」
「事実ですので」
「俺以外にも?」
「もちろんです」
タウント、固まる。
「え」
「皆様それぞれ素晴らしいところがありますから」
にこっ。
悪意ゼロ。
でもタウントの心はざわざわする。
横の人が笑う。
「ケアテイカーって誰にでも優しいよな」
その一言。
タウントの口がむっとなる。
「……だよな」
ぼそ。
ケアテイカーは気づかない。
「タウントさん?」
「なんでもねぇ」
そっぽを向く。
ケアテイカーは少し困った顔になる。
「体調が悪いのですか」
「違う」
「ではどうして」
少し近づく。
「いつもより不機嫌そうです」
「不機嫌じゃねぇ」
「ですが」
さらに近い。
タウントは視線を逸らしたまま言う。
「……お前さ」
「はい」
「誰にでもあんな顔すんなよ」
ケアテイカー、ぽかん。
「どの顔でしょう」
「今の」
「……?」
完全に理解していない。
横の人が笑う。
「タウントそれ嫉妬じゃん」
「は!?」
タウントが振り向く。
「違ぇ!」
「いや完全にそれ」
「違うって!」
ケアテイカーはきょとん。
「嫉妬、ですか?」
タウントは顔を逸らす。
「……してねぇ」
でも耳は赤い。
ケアテイカーは数秒考える。
そして小さく微笑む。
「安心してください」
「なにが」
「その顔は」
少しだけ声を落とす。
「タウントさんにしか向けていません」
空気、止まる。
横の人。
「うわ」
「やば」
タウント、真っ赤。
「……お前」
「はい」
「それ反則」
ケアテイカーは首を傾げる。
「なぜでしょう」
タウントは頭を抱える。
「無自覚でやるな……」
でもさっきまでの不機嫌は、どこか消えていた。
時は移り、夕方の廊下。
ケアテイカーはいつものように診療室へ戻ろうとしていた。
「それでは、また何かありましたら」
さっき話していた仲間に丁寧に頭を下げる。
「うん、ありがとなケアテイカー」
「お大事になさってください」
その人が去っていく。
ケアテイカーはふっと息をついて歩き出す――
……と。
診療室のドアの横。
壁にもたれている人影。
逆向きの青い帽子。
腕組み。
明らかに機嫌が悪い顔。
「……タウントさん?」
呼ばれても動かない。
「どうかなさいましたか」
近づく。
タウントはちらっとだけ見る。
「別に」
短い。
そしてまた目を逸らす。
ケアテイカーは少し困った顔になる。
「先ほどからずっとこちらにいらっしゃったのですか?」
「さぁ」
「お待ちでしたか?」
「違う」
即答。
でも動かない。
ケアテイカーは少し考えてから言う。
「……何か、お気に障ることをしてしまいましたでしょうか」
「してねぇ」
「ですが」
「してねぇって言ってんだろ」
声がちょっと強い。
ケアテイカーがびくっとする。
タウントはすぐに目を逸らす。
「……悪い」
ぼそっと。
数秒沈黙。
ケアテイカーはゆっくり尋ねる。
「タウントさん」
「なに」
「拗ねていらっしゃいますか」
「は?」
即反応。
「拗ねてねぇし」
「ですが先ほどから」
「違う」
「では」
ケアテイカーは静かに首を傾げる。
「どうして私を見ないのですか」
タウントの肩がぴくっと動く。
「……見てるだろ」
「先ほどから三秒ほどしか目が合っておりません」
「数えてんのかよ」
「はい」
真顔。
タウントは思わず吹きそうになるが、ぐっとこらえる。
「……」
また沈黙。
ケアテイカーは少し近づく。
「もしよろしければ」
「……」
「理由を教えてください」
タウントはしばらく黙ってから、ぽつりと言う。
「……お前さ」
「はい」
「さっきのやつ」
「さっきの?」
「廊下で話してたやつ」
ケアテイカーは思い出す。
「ああ、相談を受けていた件でしょうか」
「距離近い」
ぼそ。
「え?」
「近かった」
「どなたとでしょう」
「……あいつ」
ケアテイカーは少し驚いた顔になる。
「……それで、不機嫌だったのですか?」
「不機嫌じゃねぇ」
「拗ねていらっしゃいますね」
「違う!」
でも顔はちょっと赤い。
ケアテイカーはしばらくタウントを見て、それから小さく笑う。
「タウントさん」
「なに」
「嫉妬ですか」
「違う!!」
即否定。
でも耳は真っ赤。
ケアテイカーは一歩近づく。
「安心してください」
「何が」
「私は」
そっとタウントの袖を掴む。
「あなたを一番信頼しています」
タウント、固まる。
「……信頼?」
「はい」
「……それだけ?」
ぽろっと出る。
自分で言って、タウントは固まる。
ケアテイカーは数秒考える。
それから、少しだけ声を落とす。
「……それ以上です」
静かな一言。
タウントの心臓が跳ねる。
「……お前」
「はい」
「そういうの」
顔を背ける。
「ズルい」
「どこがでしょう」
「拗ねてるのバレてるのに、それ言うとこ」
ケアテイカーは少し考えてから、そっと言う。
「拗ねてくださるのは」
「……」
「少し嬉しいです」
タウントの思考が止まる。
「は?」
「私のことで、感情が動いているということですから」
顔、ほんのり赤い。
タウントは数秒固まってから、頭を抱える。
「……もう無理」
「何がでしょう」
「お前強すぎ」
ケアテイカーはくすっと笑う。
そして小さく言う。
「でも」
「……?」
「拗ねているタウントさん、少し可愛かったです」
沈黙。
三秒後。
「……帰る」
「なぜでしょう」
「これ以上いたら俺の心臓がもたない」
でも――
袖はまだ掴まれたままだった。
また数分後。広場。
人が何人か集まって雑談している。
その中心にいるのは――ケアテイカー。
「それは筋肉の炎症ですね」
穏やかな声で説明している。
「数日安静にしていただければ回復します」
「さすがケアテイカー」
「頼りになるなぁ」
「いえ、私はただ知識をお伝えしただけです」
控えめに笑う。
周りの空気は柔らかい。
そしてその少し離れた場所――
ベンチに座っているタウント。
「……」
腕組み。
足トントン。
視線はずっとケアテイカー。
横にいた仲間が気づく。
「タウント」
「なに」
「めっちゃ見てる」
「見てねぇ」
でも見てる。
めちゃくちゃ見てる。
その間にも会話は続く。
「ケアテイカーってほんと優しいよな」
「話しやすいし」
「安心感ある」
タウントの眉がぴくっと動く。
「……」
「今度また相談していい?」
「もちろんです」
にこっと微笑むケアテイカー。
その瞬間。
タウントの足トントンが止まる。
仲間が笑う。
「タウントさ」
「……」
「嫉妬してね?」
「してねぇ」
即答。
でも声低い。
「いや完全に」
「違う」
「顔怖いぞ」
「うるせぇ」
タウントは立ち上がる。
そのまま真っ直ぐケアテイカーのところへ歩く。
周りの人が少し道を空ける。
「タウントさん」
ケアテイカーが気づく。
嬉しそうに少し表情が柔らぐ。
「どうなさいましたか」
タウントは一瞬黙る。
周りの視線。
ざわざわ。
さっきの言葉が頭の中で回る。
優しい
頼りになる
安心感ある
全部、自分以外のやつが言ってる。
胸の奥がむずむずする。
「……」
ケアテイカーが少し心配そうに覗き込む。
「具合が悪いのですか」
その距離。
近い。
でもさっきまで他のやつにもしてた距離。
タウントの我慢がぷつっと切れる。
ぐい。
ケアテイカーの腕を引く。
「っ」
周りがざわっとする。
ケアテイカーは驚いて目を瞬く。
「タウントさん?」
タウントは少し顔を背けながら言う。
「……お前さ」
「はい」
「誰にでもそんな顔すんな」
ケアテイカーはきょとん。
「どの顔でしょう」
タウントの耳が赤くなる。
「さっきの」
「……?」
「笑うやつ」
「笑顔でしょうか」
「それ」
周りからくすくす笑い。
「タウント嫉妬確定」
「かわい」
「黙れ」
タウントは深く息を吐く。
そしてケアテイカーを見る。
まっすぐ。
「……俺だけ見ろ」
静かな声。
空気が止まる。
ケアテイカーの瞳が大きくなる。
タウントも自分で言って固まる。
「……」
三秒沈黙。
五秒沈黙。
後ろで誰かが小さく言う。
「言った…」
タウントは顔を手で覆う。
「……今のなし」
ケアテイカーは小さく首を振る。
「なしにはできません」
真面目な声。
「タウントさん」
「……」
「それは」
少しだけ顔が赤い。
「命令でしょうか」
「……違う」
「お願いでしょうか」
タウントは少しだけ笑う。
照れた笑い。
「……わかんねぇ」
正直。
ケアテイカーは少し考える。
そして、そっと言う。
「では」
一歩近づく。
「努力します」
「……は?」
「タウントさんを見る時間を」
小さく微笑む。
「今より増やします」
タウントの思考停止。
周り。
「うわ」
「甘すぎ」
「お似合いすぎ」
タウントは耳まで真っ赤。
「……お前」
「はい」
「それ余計だ」
でも手はまだ腕を掴んだまま。
ケアテイカーは少しだけ嬉しそうだった。