仕事が終わった後、いふはリラックスした様子で料理をしていた。
その時、初兎が少し照れたように言った。
「まろちゃん、目閉じて」
「また急に?…料理してるのに?」
「お願い、すぐ終わるから。いいから、閉じて」
そう言われて、半信半疑で目を閉じた。
しばらく何も動きがない。
その間、いふの心拍がわずかに早くなる。何か、予感がする。
やがて、ほんの少しだけ初兎の柔らかな息が顔にかかる。
(……もしかして)
そう思った瞬間、初兎がつま先立ちで顔を近づけてきた。
そして、なんとか届きそうな距離まで来たけれど、やっぱり――
「…届かない……っ」
「だから言ったじゃん、届かないって」
いふは目を開け、初兎のぎこちない顔を見つめる。
肩が震えて、必死に身を乗り出しているその姿が、どこか愛しくてたまらない。
「いい加減にして、俺がしちゃう」
「えっ?」
言葉が終わる前に、いふはぐっと身をかがめて、初兎の顔を両手で挟んだ。
「え、ちょっ――」
その言葉を遮って、いふは初兎の唇を強引に奪った。
一瞬、初兎は驚いたように固まったが、すぐにその温もりに身を委ねた。
いふは手を初兎の髪に絡めて、さらに深く、優しく唇を重ねた。
「――ん……」
その声に、いふの胸が高鳴る。
初めは軽いキスだったけれど、すぐに二人の間には切ないような、甘い空気が広がった。
「…ふぅ…」
唇を離すと、初兎はうっすらと目を開け、顔を赤くした。
「まろちゃん、キス……」
「届かないからって、反則だろ?」
「は?!」
初兎があたふたしている間に、いふはにっこりと微笑んで、
「お前が頑張ってるの、かわいすぎて我慢できなかった」
「だからって、いきなりすぎやろ……!」
「……次は、初兎から俺にキスしに来ていいんだぞ」
「無理って分かってるでしょ!」
初兎は顔を真っ赤にして恥ずかしそうに顔をそむけた。
でも、心の中では――
さっきのキスが、やっぱり嬉しくてたまらなかった。
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