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16話 「裏通りの影と夕餉」
翌日、昼過ぎに買い出しをしていると、ルーラが珍しく俺たちから離れて歩いた。
どうやら気になる雑貨屋があったらしい。
「ちょっと見てくる」
そう言って路地に入っていったが――五分経っても戻らない。
嫌な予感がして、ミリアと共に路地へ入る。
そこは商人たちの倉庫が並ぶ薄暗い一角。
足音を忍ばせて進むと、ルーラが三人の男に囲まれていた。
「……返してもらうぞ。そのガキは俺たちのもんだ」
いかにも裏稼業の風貌だ。
ルーラは睨み返していたが、男の一人が腕を掴もうとした瞬間――。
「おっと、勝手に連れ帰るのは無しだ」
俺は間に割り込み、掴もうとした手首を捻り上げた。
男が呻く間に、ミリアが素早く剣を抜き、残り二人を牽制する。
「こっちは数で勝ってるんだぞ!」
背後からもう一人、ナイフを持った男が飛び出す。
しかし俺は半歩下がって柄で脇腹を突き、呼吸を奪った。
それ以上の抵抗はなく、彼らは舌打ちしながら退いていった。
ルーラは一言も発さず、ただ小さく「……ごめん」と呟いた。
だが、その表情は怯えよりも、決意を固めたような硬さがあった。
夕暮れ、宿の食堂は温かなスープの香りで満たされていた。
ルーラは黙々と食事を口に運び、ミリアは向かいでパンをちぎっている。
「今日は大変だったね」
「まぁな。でも怪我もないし、無事で良かった」
食後、暖炉の前で湯気の立つハーブティーを飲みながら、俺はルーラに尋ねた。
「さっきの連中、心当たりは?」
「……ある。でも、まだ言わない」
短くそう答えると、ルーラは視線を落とした。
追及する気はなかった。いつか自分から話す時が来るだろう。
ミリアがあくびをし、ルーラは食後の片付けを手伝い始める。
王都の夜は静かで、窓の外には月が丸く輝いていた。
だが、その穏やかな時間の裏で、確実に何かが動き始めている――そんな気配があった。