その言葉と共に一人の兵士が大剣を構えて突っ込み横薙ぎに払う。すまないはそれを上体を逸らして躱し、その動きのまま上段蹴りを兵士の顎に叩き込んだ。
「がっ……!?」
しかしさすが腕の立つ兵士であるからかすぐにすまないを見くびっていた事に気付き、本気モードに切り替わった。次は三方向から一気に突っ込んで来た。先程のような大きな動きをしていては、一人を攻撃している間に他の二人の追撃を受ける。
「すまない君……!」
(……卑怯だわ……!)
エウリがグッと唇を噛み締める。しかし、すまないはふわりと飛んで三方向からの攻撃を全て避けた。突っ込んで来た三人は走っていた勢いを殺せずそのままぶつかり、お互いの剣で体を傷付け合ってそのまま塊になって倒れた。じわじわと広がる血溜まりに臆する事なくすまないはそこでピクピクしている兵士達を眺めていた。
ヒュンッ!
不意に響いた風切音にすまないは気付き、剣で受けようとした。しかし些か不安定な体勢だったのが災いし、すまないの幼い体は修練場の端まで吹き飛ばされ、壁に激突した。
「……っ……」
すまないはその場に崩れ落ちしばらく動かなかったが、数秒後ふらふらと立ち上がると今度はお返しと言わんばかりに地面を蹴って、姿が霞む程の勢いで兵士の一人に接近し剣を振り下ろした。
ガキィンッ!
速度はあったが重さに劣るすまないの剣は兵士の大剣にあっさり受け止められた。しかしそこからは乱闘だった。すまないの素早い連撃と兵士の重い一撃一撃。それがお互いに傷を負わせていく。ついにすまないの目にも止まらぬ突きが兵士の脇腹を貫き、一人目の兵士はダウンした。
(やっと一人……でも……)
まだ離れた所には5人以上の兵士が残っている。するとヨルムンガンドが立ち上がり、すまないの耳に口を近付けて
「《殺すな》」
の命令した。確かにあれをずっとやっていたら兵士の一人や二人、殺してしまいそうだ。
(でも、殺すなって……あの人数まともに相手するのは難しいわよ……それに……)
お互いを傷付け合った兵士達も立ちあがろうとしている。完全な挟み撃ち状態だ。
(どうするの……すまない君……)
すまないは右手のダイヤ剣をスッと構える。そして地面を蹴った。搦め手も何も無いただの突進。しかしそれゆえにスピードも重さも段違いだ。
ギャリィンッ!
剣と剣がぶつかり合う激しい音が響き、再び乱闘が始まる。兵士は万全の状態に対しすまないは先ほど乱闘をした後である上に、手負の状態だ。
(……この勝負……すまない君の分が悪すぎるわね……ヨルムンガンド様はきっとすまない君を勝たせるつもりなんて無いのね……)
エウリは何度も『もういい』と叫びそうになった。でもその度にすまないの顔に浮かぶ決意とでも言うものに気圧され、どうしても言葉が紡げないのである。
ドッ
あまりにもささやかな、しかしそれと同時に勝負を決する残酷な音が聞こえた。
“すまないの胸を剣が貫いていた”
「っ……す、すまない君っ!」
エウリはもう見ていられなかった。目を覆って流れる涙を拭う。
ヒュッ
トンッ
突如聞こえた軽く速い風切音にそっと前を見ると、胸を貫かれたはずのすまないが目の前の兵士を斬り、自身の胸を貫いた兵士も切り伏せたところだった。
「……え……?」
コメント
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あぁ…!すまない先生ーー!!!もうすまない先生が傷ついているのをずっと見ているエウリ辛すぎやろ… てか兵士強いんやね!すまない先生の攻撃を受け止めたり避けたり…正直舐めてたわ! 最後のすまない先生覚醒した?その後暴走とかないよね…?大丈夫よね?