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テラーノベルの小説コンテスト 第4回テノコン 2025年1月10日〜3月31日まで
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早速アスタロトがおりんに向けて手を翳(かざ)そうとするのを光影が慌てて止めたのである。


「ちょ、ちょっと! アスタさんが魔力を込めたらさっきみたいになるじゃないですか! ホットスポットどころじゃないですよ? 全滅ですよ、全滅! 臨界したらどうするんですか! 核分裂エネルギーとか分かってますよね?」


「むむむ、我では駄目か?」


「当たり前じゃないですかっ!」


このやり取りを聞いていたコユキが余裕たっぷりで言う。


「心配いらないわよ光影さん! アスタじゃなくてアタシの聖魔力を善悪経由で送り込めば大丈夫でしょ? 人間由来の物なんだし、ね? んまあ、心配ならそこらでモニタリングしていれば良いんじゃない? よっこらしょっと! 善悪イッチョやるわよ」


「りょっ! 『持続可能魔力(エスディージーズ)』、んでこっちの手で、えっと、『エクスダブル』と、これで大丈夫でござるかな?」


コユキの肩に左手を置いた善悪は、右手をおりんに向けてダメージ軽減スキル、エクスダブルを掛け始め、見る見る間におりんは光を増して、先程アスタロトの魔力を照射された時同様、キンキンとハウリング音を響かせながら激しく光り輝き始めたのである。


暫(しばら)くそのままスキルを掛け続けていた善悪がおりんの変化に気が付いて言葉にした。


「むむむ? なんかハウリングが止まって光も消え失せたのでござるな? 何よりこれ以上聖魔力が入って行かない感じなのでござる、押し返されるような感じでござるよ! 流れとか止まっているのかな? どうでござる?」


この言葉に魔力操作に長けた三柱+一人、バアルとラマシュトゥ、シヴァ、トシ子が四方から囲む様におりんを覗き込み、程なくして口々に言うのであった。


「止まってるね、これ」


「ええ、完全に停止してしまいましたわね」


「不思議な状態だな…… 今にも破裂してしまう位に魔力が満ちているのに、信じられ無い程静かだ…… 静寂、その物って感じだな……」


「あたしゃー何だか怖く感じちゃうがねぇー、だって魔力や聖魔力は生命力なんじゃろ? 動かない生命なんて何だかね…… ちょっと不気味じゃないかい?」


最後に発せられたトシ子の声を聞いておりんを覗き込んだリエが、横にいる姉、コユキに向かって言う。


「おばあちゃんはそう言うけど見た目は何にも変わっていないよね? ユキ姉、結局何にも起こらなかったみたいだね! 結城さん残念、実験終了! そう言う事なんだよね? 無駄だったって事じゃない?」


コユキは偉そうに腕を組んで答えようとしたが届かなかったので代わりに指を組んで答えた。


「あのねリエ…… 実験自体は無駄じゃあなかったでしょ? 仮説を証明する事は出来なかったけど、何にも起きなかったって事、否定は出来たじゃない? 科学ってそういう物なのよ? おけい? マイシスター?」


「「おけい! マイシスターっ!」」


コユキの言葉に声を揃えるリエとリョウコ、流石姉妹だ、息ピッタリである。

なぜか、吹木悠亜女史が感心したような声を上げる。


「善悪さんの彼女、コユキさんて格好良いわね! 学者さんみたいじゃないのっ! ほら昭っ! 無駄じゃなかったってよ! 元気出しなさいよっ!」


どうやらまた一人、コユキはファンを増やしてしまった様である、表情もどこか偉そうな物から物憂げな感じで『ふっ、敗北を知りたい』的な物へと変化を遂げていた。

顔肉が多すぎて周囲に伝わっていなかった事だけが本当に残念である。


善悪が顔を真っ赤にしながら悠亜に言うのであった。


「吹木さん、あの、その…… 誤解させてしまったみたいでござるがぁ…… えっと、小生とコユキ殿はニコイチ、所謂(いわゆる)二人で一つの掛け替えない相方同士でござるけど、まだ、彼氏とか彼女とかそ~言う~? そこまでは、ま・だ、あくまでも、ま・だ、至ってはいないのでござるよ? ま・だ・ね、ま・だ」


「そ、そうよ! こんな野獣の如き煩悩塗れの破戒僧の彼女とか? い、一緒に暮らしているだけなんだから! もうっ! 勘違いしないでよねっ! 迷惑至極っ、よっ! んでも、悠亜ちゃんだっけ? アンタ顔だけじゃなくて可愛い事言うのね~! 嫌いじゃないわよっ! その調子で頑張りなさい! 今後に期待っ! よっ!」


このコユキのツンデブを聞いて一人落ち込んだ様子の丹波晃が呟くのであった。


「そうか…… コユキさんは善悪さんとここで一緒に暮らしているんだな…… そろそろ、自分の気持ちに決着を付けなくちゃならないんだろうな…… くっ! 覚悟していた筈なのに…… 何だろう? 涙が…… いいや、これは涙じゃない! 心の汗だ!」


このタイミングで話し始めから、空気を読まずにウズウズしっ放しだったイラとルクスリアの元夫婦が秋沢明と通訳の辻井ちゃんの前に進み出て、丁寧に三つ指ついて頭を垂れながら口にするのであった。


「あの秋沢さん、その節は私達の息子の事でお手を煩わせてしまいまして…… 誠にありがとうございました」


「本当です! 俺の意気地が無かったばっかりに…… 貴方に頂いた温情には、これから長い年月を掛けて必ずお返しして行きますので、それでご容赦下さい! この通りです!」


言い終わるや、一層深く頭を本堂の床に擦りつけた外国人風味の二人に対して、秋沢明はトレードマークの伊勢弁も忘れて呟いたのである。


「えっと、こちらこそ、あの、ご丁寧に、どうも…… ってか、どなたですか? 外国の方ですよね? えっと……」


グラが勝手に『饅頭恐い』の茣蓙(ござ)を広げて寝そべりながら大声で言う。


「みんな! 話が長くなったからお腹が空いてるんじゃないがぁ~? ほら! おまんじゅうを食べるんだどぉ! おいで、おいで! 食べ放題だどぉ~!」


言葉通り皆、空腹感でも感じていたのかコユキと善悪を筆頭にしてワラワラと笑顔を浮かべながら茣蓙、いいや大きなグラの周りに集まって行くのであった。

堕肉の果て ~令和に奏でる創造の序曲(プレリュード)~

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