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よう、ベルモンドだ。お嬢のお守りをしていたんだが、厄介な奴と再会する羽目になっちまった。お嬢が不思議そうな顔をしてる。
不味い、こいつをお嬢に近付かせるわけにはいかねぇ。ロクな奴じゃないからな。
「ベル、お知り合いですか?」
「これはこれは、可憐なお嬢さんだ。是非とも御近づきになりたいねぇ」
野郎…。
「古馴染だ。悪いがお嬢、ちょっと離れるぞ。ルイ、お嬢から目を離すなよ」
「分かってるよ、ベルさん」
ルイが居るなら問題ないな。少し離れるだけだ。
「ほら、こっちだ。うちのお嬢に手ぇ出すな」
「そりゃ残念だ」
俺はこいつを引っ張って路地裏に連れ込んだ。ただならぬ気配を感じたのか、屯してた浮浪者達が離れていく。長生きの秘訣だな。
「随分と可愛らしいお嬢さんじゃねぇか、旦那の女かい?」
相変わらず下品な面を歪めてやがる。
「てめえには関係ねぇだろ、バルモス」
こいつはバルモス、俺の古巣のメンバーだ。下品で下衆、趣味は未成年の美少女をなぶり殺す事。救いようがない屑だな。
「つれないねぇ、旦那。同じ釜の飯を食べた仲じゃねぇか」
「ふざけんな、てめえと仲良くなった覚えは無ぇよ」
「へっへっへっ、そりゃそうだ。しっかし驚いたなぁ。旦那が生きてるなんてよぉ。四年前に死んだと思ってたんだがなぁ?」
「ああ、てめえらに殺され掛けたよ。どの面下げて俺の前に現れやがった」
そう、お嬢が俺を助けてくれた時。俺は古巣から命を狙われて怪我をしたんだ。やり方に付き合いきれなくなってな、組織を抜ける時にやられた。こいつの手引きでな。
「怖い怖い、そんなに睨まないでくれよぉ。仕方ねぇさ、ボスがアンタを消せって言ったんだぜ?俺だって胸が痛んだよ」
「てめえに痛む胸なんて無ぇだろうが。とにかく俺は組織を抜けたんだ。二度と俺の前に現れるんじゃねぇ。それとも、四年前のケリを今ここで着けてやろうか?」
こいつをぶっ殺しても、誰も哀しまねぇ。世のためって奴だ。
「待て待て、旦那。つれないこと言うなよぉ。話は聞いてるぜぇ?旦那。あのお嬢さんだろ?アンタの新しいボスは」
「だからなんだってんだ。お嬢に手ぇ出すなら殺すぞ」
背の大剣を握りながら俺はバルモスとの間合いを図る。
「まあ待てって。『暁』だったか。縄張りも持たない新参ものだが、随分と羽振りが良いみたいじゃねぇか。そんなところに居るなんて、旦那も運が良いな」
「ああ、てめえら……エルダス・ファミリーよりずっと居心地は良いよ。だからなんだ?」
古巣の名前はエルダス・ファミリー。エルダスって男が率いてるマフィアかぶれだ。いや、マフィアにも成りきれてない中途半端な組織だが、勢力だけはデカい。シェルドハーフェンの十六番街を縄張りにしてる。暗殺裏金麻薬を初めとしたあらゆる悪事に手を染めてる糞みたいな組織だ。
「ボスは、アンタを殺そうとしたことを後悔しててな。やっぱり大事に育ててきた息子同然の奴を殺そうとしたのは間違いだってな」
「今更何を言ってやがる」
俺はガキの頃エルダスに拾われて育てられた。そこで色々仕込まれたが、感謝なんてしてねぇ。奴は俺みたいな拾ったガキを都合の良い駒としか見てなかったからな。
「確かに今更だよな、戻って来い何て言わねぇよ。でもなぁ、旦那。やっぱり育てて貰った借りはきっちり返すのが筋だと思わねぇか?」
「汚い仕事を何度もやっただろ、それで恩返しは終わりだ」
「あれっぽっちじゃ恩返しにならねぇって。少なくとも上の兄貴達はそう考えてる」
「何が言いてぇんだ。はっきりしろ」
「いくつか仕事を頼まれてくれたらチャラにするって話だ」
「断る。てめえらとは縁が切れてんだ。襲ったことは見逃してやるから、消えろ」
「そっかぁ…なら仕方ねぇな。あのお嬢さんに話をするしかねぇ」
「てめえ、お嬢には近付くなって言ったよな?」
こいつ、ヘラヘラ笑いやがって。
「だってそうだろう?仁義を通さねぇなら相応の報いが来るって訳だ。俺も手ぶらで帰ったら兄貴達に殺されちまう」
「今ここで俺がぶっ殺してやろうか?その方が良さそうだな」
「待てよ、旦那。俺に手ぇ出したらアンタがこれまで何をしてきたのか纏めた手紙が『暁』に届く算段になってるんだぜ?あれだろ、町外れにある古びた教会だろ?」
「てめえ…」
こいつは昔から用意周到だ。自分を危険から遠ざけるために手を打ちながら近付く。
「なぁに、簡単な仕事をいくつかやってくれたら良いんだって。そしたら、もう手は出さねぇよ」
「信用できるか、そうやって相手を地獄に引きずり込むのがてめえの常套手段だろうが」
「けどよ、旦那は断れねぇ。旦那が何をしてきたか知ったらあのお嬢さんはどう思うかねぇ?」
「てめえ…!」
「ちゃんと報酬も支払うからよ、お互いのために受けてくれねぇか?旦那。俺も兄貴達に殺されなくて済む。アンタはちょっと手を汚すだけで報酬は手に入るし今の生活も送れる。ほら、良いことだけしかねぇ」
くっ!
「…ふざけた真似したら問答無用で殺すぞ。分かってるだろうな?」
「もちろん、旦那が本気なのは知ってるからよ。俺は死にたくねぇんだ」
「……分かった、これっきりだぞ。エルダスの署名が入った証明書を持ってこい。てめえの口約束何か信用できねぇからな」
「仕方ねぇか、兄貴達にも伝えとくよ。んじゃ、また会おうや」
「お嬢には二度と近付くな。用があるなら呼び出せ。てめえなら簡単だろ?」
「あいよ、じゃあな旦那。また会おうぜ」
「さっさと失せろ」
バルモスの奴は下品な笑い声を挙げながら闇に消えた。
面倒なことになったな。お嬢の言葉を借りるなら、因果応報って奴かね。いや、この世界は意地悪だったか?確かに意地悪でくそったれだ。あいつは、『暁』の名前が売れ始めたから近付いて来やがったな。
エルダス・ファミリーは糞の集団だが、十六番街を仕切るくらいデカい組織だ。今のお嬢、『暁』じゃ分が悪い。下手に事を荒立てる訳にはいかねぇ。
信用できねぇが、仕事をやりつつ時間を稼ぐことはできる。お嬢がエルダス・ファミリーに対抗できるまでの力を蓄えるまで、少し辛抱するか。
シャーリィ=アーキハクト十六歳夏の日、『暁』に新たなる試練が訪れようとしていた。