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誰も知らない、高嶺の花の裏側2
第90話 〚信じるという選択〛(海翔視点)
澪の隣を歩くとき、
俺はいつも半歩だけ前に出ていた。
守るため。
何かあったら、すぐに間に入れるように。
それが当たり前だと思っていたし、
それしか方法がないとも思っていた。
——けど。
最近、澪は立ち止まらなくなった。
以前なら迷っていた場面でも、
少し考えてから、自分の足で前に進く。
予知に頼らない。
心臓の痛みに逆らう。
自分で選ぶ。
その姿を見ていると、
俺が前に出続けることが、
逆に彼女の視界を狭めている気がした。
(……守りすぎてた、か)
放課後、廊下を歩く。
今日は並んでいるだけで、特に話さない。
でも、沈黙は重くなかった。
澪は自分のペースで歩いている。
足取りは静かで、でも迷いが少ない。
何かが起きる気配は、確かにある。
それでも——
俺は、前に出なかった。
何かあったら助ける。
でも、起きる前に全部消すんじゃない。
澪が自分で気づいて、
自分で選んで、
自分で立つ、その瞬間を——
奪いたくないと思った。
教室の前で、澪が振り返る。
「……海翔」
名前を呼ばれる。
それだけで、胸の奥が少し温かくなった。
「大丈夫だよ」
澪は小さく言った。
俺に言い聞かせるみたいに。
その言葉を、
俺は初めて“そのまま”受け取った。
(信じる、か)
守るって、
前に立つことだけじゃない。
隣に立って、
同じ方向を見ること。
倒れそうになったら支えるけど、
歩くのは本人に任せること。
——それも、守り方だ。
俺は一歩下がり、
澪と同じ位置に立った。
不安が消えたわけじゃない。
でも、覚悟は決まった。
澪が選ぶ未来を、
俺は疑わない。
それがどんな結果でも、
一緒に受け止める。
その時、初めて思った。
(……ああ)
守るから、
信じるへ。
俺の役割は、
ちゃんと変わり始めている。
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