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第12話:社長夫人は今日もわがまま
結婚から三年後――。
「社長夫人、本日の会議は十時からでございます」
秘書が丁寧に告げる。
「知ってるわ」
椅子に優雅に腰掛けているのは――藍琉。
今や蒼真の会社は国内有数の成長企業となり、
彼は若き実業家として注目されていた。
そして藍琉は、正式に“社長夫人”。
だが。
「蒼真は?」
「社長はすでに役員会議室へ」
藍琉は少し不機嫌になる。
「私より先に仕事?」
秘書が困る。
その瞬間。
ドアが開く。
「お呼びでしょうか、夫人」
蒼真が入ってくる。
完璧なスーツ姿。
落ち着いた笑み。
社長としての貫禄がある。
けれど――藍琉の前では変わらない。
「なんで先に行くのよ」
「お仕事ですので」
「私より大事?」
蒼真は迷わず答える。
「いいえ」
秘書が固まる。
藍琉は得意げに笑う。
「ほら」
蒼真は続ける。
「妻が最優先です」
周囲の社員たちがざわつく。
(社長……強い)
藍琉は満足そうに立ち上がる。
「今日は私も会議に出る」
「もちろんです」
実は藍琉は経営学を学び、
今では会社の広報とブランディングを任されていた。
元お嬢様のセンスは抜群。
「この新商品のデザイン、地味」
会議室でバッサリ言う。
役員たちが震える。
だが蒼真は微笑む。
「では夫人の案を」
藍琉はタブレットを開き、自信満々に見せる。
「こっち」
一瞬の沈黙。
そして役員の一人が言う。
「……素晴らしい」
空気が変わる。
蒼真は誇らしげに言う。
「さすが私の妻です」
藍琉の顔が少し赤くなる。
「当たり前でしょ」
でも嬉しい。
―――――
夜。
社長室。
「疲れた」
ソファに座る藍琉。
蒼真が隣に座る。
「本日もお見事でした」
「褒めすぎ」
「事実です」
少し沈黙。
藍琉は彼を見る。
「ねえ」
「はい」
「執事の頃と今、どっちが好き?」
蒼真は即答する。
「今です」
「なんで」
彼は優しく言う。
「今は、堂々とあなたの隣に立てますから」
胸がじんわり温かくなる。
藍琉は小さく笑う。
「でもね」
「はい」
「私はどっちの蒼真も好きよ」
蒼真は少し驚き――そして微笑む。
「光栄です、夫人」
藍琉は彼の肩にもたれる。
「命令」
「なんでしょう」
「一生、私の隣にいなさい」
蒼真はそっと抱き寄せる。
「かしこまりました」
社長と社長夫人。
けれど二人の関係は変わらない。
わがままなお嬢様と、
それを愛してやまない元執事。
物語は、これからも続いていく。
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お~