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はひー。木曜日ともなると疲れが溜まるわぁ。
月曜日。お休み明けで溜まったメールの処理に追われる。でも捗る。あと、仕事帰りに電車のなかではむはむジャンプラなどアプリで漫画を貪り読むのが楽しい。
火曜水曜ともなると疲労が蓄積し、昼休みは屍のように眠る。これはなにもわたしに限った話ではないらしく、うちの会社では寝てる子を結構見かける。みんな疲れてるよね。
金曜日は、今日が終われば週末だって分かっているから気分が乗る。
だから木曜日が一番しんどい……。あと五時間も働くのかわたし。大丈夫かな。
はひー。と息を吐きながら食後の珈琲を飲んでいると、
「お疲れ様」
ことり、と小さなチョコレートの包みが置かれた。うわう、リンツのチョコって美味しいよね! 休憩中に食べてるとたまらん……。最高のご褒美だよ。
そしてそんな素敵なプレゼントをくださったあなたはやっぱり今日も素敵だ。「お疲れ様です。広岡さん」と頭を下げる。
なんだかはにかんだように笑うあなたは、周りへと視線を巡らせるとやや声を落とし、
「……鷹取さんが昼休みに起きてるって珍しいネ☆」
きゃうっ。わたしが、毎日、お昼休みに爆睡してるのバレてるぅー。わたし、あなたの犬になりますっ。わぉんっ。
「なんか今日は頭が冴えている日で」テーブルに片手を添え、目線の高さを下げるあなたは今日も美しい。その細いウエストやほっそりとした腰回りが、男の人だな、と感じさせる。「……ていうか広岡さん。なんでそんな多忙なのに周りのこと見えてるんですか。大黒摩季だってホントはひとりなんですよ?」
わたしが中学生の頃に一世を風靡した歌手の名を挙げると、あなたは、面白そうに笑った。ビジュ担当、作曲担当、歌担当の三人がいるって説があったよね。
お昼休み時間をずらしたので周りはガラガラだ。いつもならすごいひとなんだけど。うちの会社、ひとが多いし。
という事情を看破したあなたは、そ、とわたしの鼻の頭を人差し指でつつき、
「……有香子は特別だから」
きゅ、う、ううーん!!
心臓が。求心を誰か。誰ですか、谷口亜夢が描きそうな爆イケをこの場に連れてきたのは。
挙げ句ウィンクまでされて気絶するかと思ったわ。ぜえはあ。
殺し文句を吐いておいてこのひとは美しく笑い、じゃ、ごゆっくり、なんて言って颯爽とこの場を去ってしまう。エレガント……。
その、軽快な足取りを見送り、わたしは、切ない気持ちになる。……切ない……。
もしわたしが、結婚してない状態で出会っていたらなぁ……。
腰の位置が高い。細くて均整の取れたからだは、仮に、敵意を持つ者でさえも魅了されるだろう。いつもビシーッとスーツを着こなして。夏なのでジャケットは椅子にかけて、ワイシャツの袖を七分までまくりあげるのがあなたのスタイル。足が韓国アイドルみたいに筋肉質で、でも細いんだよね……。
その汗ばんだ胸に顔を埋められたら……どれほど幸せか。
一度きりの、あまくて濃厚なキスを思い返す。あんなに、身もこころも溶かされそうになった濃密な口づけをされたのは生まれて初めてだった。初めてキスされた少女のごとく、ドキドキしてしまう。きゃ。
わたしの勘違いでなければふたりは両思い。独身同士であればなんなくハッピーエンドを迎えられるはずなんだけど。現実ってそう上手くはいかない。
でも。
包みに手をかけてほどいた。まぁるいチョコレートを口に含む。中からとろーり、としたチョコクリームがあふれだし、わたしのこころをあまったるく染めた。……わたし。
「あなたに骨抜きです」
こころなしかほっぺが熱かった。
*