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第一話 バギーの災難の始まり
ある日のことだった。
新世界の片隅、霧に包まれた奇妙な島に、バギー海賊団の船はひっそりと停泊していた。
「おーい!お前ら、食料の補給ぐらいさっさと済ませろ!オレ様は疲れてんだよ!」
バギーは船の甲板でふんぞり返りながら部下たちに怒鳴っていた。
この島は、どうやら人気がない。だが妙なことに、島の奥からは時折、爆音と紫色の煙が上がっていた。
それを見て部下のひとりが青ざめる。
「キャプテン、あれ……なんかヤバい研究所じゃないっすか?」
「はぁ?そんなもん知るか!……ん?研究所……?」
バギーの頭に、ある欲望がよぎる。
―珍しい宝や兵器が転がってるかもしれねぇ……―
結局、好奇心と金欲に負けたバギーは、こっそりひとりで島の奥へ足を運んだ。
奥に進むと、錆びた鉄扉の先に、奇妙な建物が現れた。
壁はひび割れ、煙突のような管からは紫色の煙がもくもくと上がっている。
「こ、こえー……でもオレ様なら大丈夫だ……」
バギーは自分を奮い立たせ、ギギギと音を立てて扉を押し開けた。
そこは――まさに“地獄の研究室”だった。
床にはガラスの試験管が散らばり、怪しげな液体がぶくぶく泡を立てている。
奥からは誰かの甲高い笑い声が響いた。
「シュロロロ!今日こそ成功だァ~~!!」
「ひっ!?」
声に驚き、バギーは思わず試験管を蹴飛ばしてしまった。
ドンッ!!
小さな爆発が起き、紫色の煙が立ち込める。
その瞬間、白衣を着た長身の男――シーザー・クラウンが振り向いた。
「だぁれだァ~~!? オレ様の神聖な研究室に勝手に入る奴はァ~~!!」
「ひぃっ!!? し、シーザー!?」
「おい待てェ……お前、バギーじゃねェか…シュロロロ、ちょうどいいモルモットが来たなァ……!」
シーザーの目が怪しく光る。
バギーは全身を震わせた。
「ちょ、ちょっと待て!オレ様は海賊だぞ!?こんな怪しい研究なんかに――」
「動くなァァ!!」
シーザーが奇妙な注射器と管を持って迫ってくる。
バギーは慌てて部屋の隅まで逃げる。
そのとき――
ドガァァァン!!!
実験装置のひとつが突如爆発した。衝撃で天井のパイプが外れ、シーザーの上にドサドサと鉄材が落ちてくる。
「ぎゃあああッ!!!」
「うわっ!!」
反射的に、バギーは自分のバラバラの実の能力を使い、腕だけ飛ばして鉄材を受け止め、シーザーを引っ張り出した。
「いってぇ……って、おい、助けてくれたのかァ?」
「お、オレ様だって見捨てりゃよかったけど……た、助けりゃ実験されないかもと思っただけだ!!」
シーザーは息を切らしながら、バギーを見上げた。
その瞳に、奇妙な光が宿る。
「……バギー……お前……なんて優しいんだ……」
「はあ!?優しい!?オレ様はただの海賊だぞ!?」
だが、次の瞬間――
シーザーは頬を赤らめ、恍惚とした顔でバギーの手を握った。
「……オレ、お前に惚れたァ……」
「はあああああああああッ!?!?」
バギーは全身の毛が逆立った。
白衣の科学者に恋されるなんて、海賊人生で一度も想定してなかった。
それからというもの、シーザーはやたらとバギーにまとわりつく。
「バギー!バギー!どこ行くんだァ?」
「呼ぶなぁぁぁぁぁッ!!」
バギーは必死で逃げるが、研究室から出ようとすると、シーザーが泣きそうな声で引き止める。
「行くなよぉ……オレを助けてくれたのはお前だけなんだァ……」
「う、うわぁぁぁぁ!!やめろぉぉぉぉぉ!!」
その声は、島中に響き渡った。
こうして、バギーの災難の日々が幕を開けたのである――。