コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「俺の家族が律と同じ境遇で死んだって話したの覚えてる?」
「うん」
「あれ、本当は俺の母親の話なんだ。亡くなったのは俺の母で、お腹の中の子が妹やった。母親が自殺したのは俺が小さい頃の話で、すごく辛い幼少期を過ごした。だから母のようになってほしくなくて律に伝えたかった。なんとしても律に生きて欲しかった」
「うん……あの歌を毎日聴いていたよ。いつも、いつも、あの歌に込められた歌詞に救われていたから」
「子供のことは誰のせいでもない。壊れてしまったのは、神の下す運命(さだめ)で、それには逆えない」
「そうだね……今は、少しだけそう思えるようになった」
死産した時、時間のない中で辛い決断をした彼女を誰も責めたりできない。律は旦那の成功をただひたすら願い、あの地獄を耐え抜いた。強い女性だと思う。
でも、彼女の想いは普通の人間には伝わらない。アーティストの俺だから理解してやれる。たとえ世界中の誰もが律を責めても、俺だけは絶対に律の傍にいて味方になれる。
「律を見ていたら、絶対にお前を救えるのは俺の歌しかないって思った。だから急いで帰って作った。お前のためにこの曲を書き下ろした」
「そうなんだ……ありがとう。嬉しい」
「律のさっきのピアノの弾き語り、すごく良かった。想像通り線の細くて透き通るような美しい歌声やった。お世辞抜きで聴き惚れた」
「白斗……」
「なあ、律。さっきから『白斗』って言うけど、『博人(はくと)』って言えって言ったよな? イントネーションが微妙に違うから間違えるな」
白斗は俺であって俺じゃない。
でも彼女が好きなのは新藤博人そのものじゃなくて、舞台に立ち続けていたかりそめの俺。名前は同じでも全然違う。所詮、偶像にすぎない。
それでも、お前に見つめられたいと思う俺はイカれてる。
そうまでして、手に入れたいと願っている。
ふたりで見つめあった。触れたいと思う指の先には律の頬がある。そっと彼女の体を包み込み、かわいらしい唇にキスを落とした。
「んんっ……」
脳が蕩けそうなほどに甘いキス。
罪の味がするから余計に離れがたい。
もっと、もっと欲しくなる。
まるでアダムとイブが手にした禁断の果実のように。
一度味わったらもう止められない。楽園を追放されるまで、この手を伸ばして欲してしまう。犯した罪に対しての罰は必ず用意されているというのに。
彼女には大切にしている伴侶がいる。
そんな彼女と一線を越えてしまった。
向かう先は破滅とわかっているのに――
ああ、彼女をもっと狂い歌わせたい。俺だけのために歌ってくれよ、律。
「っ……あぁ、っ……」
Desire
「律」
堕ちていく
「博人……っ……あぁ……っ!」
あなたに 奪われる
俺の作った歌が脳内で流れ出す。今、まさにこの瞬間が歌の舞台。愛し合う罪びとたちの戯れを描いた歌。
エデンで彼らが罪の果実を貪り喰らうように、俺も律の胸先の果実を貪った。甘い声で淫らに啼く彼女の美しい歌声を聴けば、欲望は止まらない。
さっきあれだけ舞台で乱れたというのに、まだ、彼女を欲して俺の欲は集結してゆく。
身を捩る彼女の腰を掴んで引き寄せ、浮いたその下に腕を滑り込ませた。片手で腰を勢いよく抱き上げ、敏感な部分に舌を這わせる。
限界に達するまで律の身体を貪る。
甘くて、卑猥で、まるで麻薬のような果実。
止まらない欲望は時を忘れさせ
罪の旅人を灼熱の炎で焼き尽くす
RBのライブでステージに立つように、俺は歌いながら彼女をもう一度抱く。