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ゼノが予想した通り、トラビスはすぐに来た。

小屋の中で座って待っていると、小屋にぶつかる勢いで走ってくる馬のひづめの音が聞こえてきた。

小さな窓のすき間から外を覗いていたゼノが「まるで悪魔のようだ」と苦笑している。

僕も苦笑いしながら立ち上がったその時、大きな音と共に小屋の扉が勢いよく蹴り破られた。

「フィル様!ご無事ですかっ」

「落ち着いて。僕は大丈夫だから」

トラビスがまっすぐに僕に駆け寄り肩を掴む。そして頭の上からつま先までを見て安堵の息を吐くと、鬼の形相で振り返った。

「おまえ…!」

「待て。いきなり剣を抜くなよ」

「フィル様になにをした?」

「だから落ち着けって。なにもしていない。というかトラビス殿の了解を得てからしようと思う」

「は?なんだと…?」

僕はトラビスが突進して行かないようにマントを掴んでいたが、トラビスが一歩前に出るごとに僕の身体が引きずられる。

仕方なく僕はトラビスの腰に背後から抱きついた。

「トラビスっ、待って!話を聞けっ」

腰に僕の腕が巻きついてることに気づいて、ようやくトラビスの足が止まる。

僕はトラビスとゼノの間に行き、背の高いトラビスを見上げた。

トラビスがひどく困惑している。

「フィル様…どういうことですか」

「こんな所に呼び出してごめん。怒らないで最後まで聞いて。僕はこれから人質としてバイロン国に向かう」

「なっ…」

「トラビス!黙って。大丈夫だから。髪を染めて変装するしゼノが守ってくれる」

「しかし」

「安心してもらっていい」とゼノがトラビスの前まで来た。

「どうしても俺がフィル様を捕らえなければならない状況になったのだ。だがすぐに無事に帰す。雪斑病の薬も持たせる。いきなり王が消えたら、君が我が国を攻めそうだからと、君の許可をもらうために呼んだのだ」

「許可だと?そのようなこと許せるはずもない。ダメだ!」

「トラビス、お願い」

「あなたに頼まれたとしてもダメです」

「…おまえは子供の頃と変わんないね。頑固者」

「なんですと?」

トラビスがギロリと僕を睨む。

睨まれても僕の意志は変わらない。それに昔から睨まれすぎたせいで全く怖くない。

「僕は行くよ。止めても行くよ」

「むぅ…」

トラビスが唸って黙り込んだ。しばらく俯いて何かを考えているようだったけど、顔を上げると言った。

「それなら俺も行きます。あなたの傍を離れません」

「え…」

「あー…そうくるか」

トラビスの言葉に、僕はポカンと口を開け、ゼノが困ったように息を吐いた。

僕は小さく息を吐く。

「トラビスまでいなくなったらイヴァル軍はどうするんだよ」

「レナードがいます。彼に俺とフィル様の二人で軍を離脱するので後を頼むと伝えます」

「それを知ったレナード?とやらも、君のように突進して来ないだろうな」

「レナードはそんなことしない」

トラビスが強く答えたけど、ゼノが呆れた様子でトラビスを見ている。

きっと内心、本当に将軍なのかと疑ってるかもしれない。

僕もトラビスはよく将軍になれたなと思っている。子供の頃、僕のことを女だとわかっていて剣の勝負を挑んできたし。いつまでも僕を恨んでしつこいし。それに短気で勝手だ。しかしトラビスは剣と魔法の力が飛び抜けて強い。大宰相の息子という高い身分もある。それに統率力が優れているから、やはり将軍としては適切なのだろう。

「フィル様」

「うん?」

考えごとをしながらトラビスを見ていると、ゼノに呼ばれた。

僕はゼノと視線を合わせる。

「俺はこの戦に反対でしたので正直に話します。今回の戦は様子見です。なので間もなくバイロン国軍は撤退します。戦況も我らには不利な状況ですし」

「そうか。それならばイヴァル帝国軍も撤退する。これ以上死者や怪我人を出したくない」

「俺もそう思ってます」

「ゼノ、村人達を守ってくれてありがとう。あの結界はゼノが張ってくれたんだろう?」

「はい。戦で傷つくのはいつも民ですから。それに両国は長い間良好な関係を保っていたのに、一つの盗難事件が発端で戦を起こすのはやり過ぎです」

「うん…あっ。その盗難事件だけど…」

「はい」

「待ってください」とトラビスが僕の話をさえぎった。

「なに」

「ここで悠長に話してる時間はないはずです。移動しながら話しましょう」

「…そうだね」

僕達はトラビスが壊した扉から外に出る。

僕がゼノの馬に乗ってる間に、トラビスが口笛をふいて鷹を呼び、鷹の足に細く折りたたんだ紙をくくりつけて空に放した。

「トラビス、いつの間に書いてたの?」

「あなたがそこの…ゼノ殿と話している間に。というか待ってください。なぜそちらに乗っているのですか」

「え?だって僕はゼノに捕らわれてるから」

「しかもなぜ手に縄をかけられているのです!」

「捕虜なんだから縛ってないとおかしいだろ」

「きさま…今すぐにその縄をほどけ」

「トラビス!」

トラビスが剣の柄を握りしめて近づいてくる。

僕は後ろに座るゼノに目で謝ると、トラビスを睨みつけた。

「普通にバイロン国に入ったら僕達だけじゃなくゼノまで疑われてしまうだろ。ここは捕まったフリをするんだ。納得できないならついてこないで」

「ぐぬぅ…」

腹を殴られでもしたかのような声を出して、トラビスが口を固く結ぶ。そしてゼノに向かってゆっくりと両腕を差し出した。

「…なにか?」

「俺の腕も縛れよ」

「いや、君にはバイロン兵のフリをしてもらう。君は将軍として顔がバレてるから。捕虜になったと知られたら即刻処刑されるぞ?」

「…それはまずいな」

「だろう?国境の手前で俺の軍服に着替えてもらう。いいかな」

「わかった」

トラビスは、まだ僕の腕の縄を見て渋い顔をしていたけど、小さく頷くとようやく馬に乗った。

銀の王子は金の王子の隣で輝く

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