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100話突破おめでとうございます!毎回ドキドキワクワクしながら見させてもらってます。待っているときでさえ次の話がどうなるか考えられて楽しいです!これからも体調に気をつけて頑張ってください!
バイロン国に着くまでの間に、盗難事件の真相をゼノに話した。
全く身に覚えがないのにイヴァル帝国のせいにされているという話を聞いて、真相を確かめに採掘場の調査に行ったこと。同じタイミングで村に来ていたバイロンの騎士達にこちらの正体がバレては困るので、薬で身体を動けなくさせてしまったこと。そのことは申しわけなく思っていること。調査の結果、ある人物がイヴァル帝国に潜入し、盗賊を操って石を盗ませていたと判明したこと。その人物とは、第一王子の部下のネロという僕と同じ歳の男だということ。
ゼノは話を聞き終えると、長く息を吐き出して考え込んでしまった。
イヴァル帝国に非がないことをわかってくれただろうか。
三人とも無言のまま進み国境手前の森に着いた。
「少し待っていてください」と言ってゼノが離れる。
ゼノの姿が見えなくなると、すかさずトラビスが「逃げましょう」と僕の腕を掴んだ。
僕は木の幹に繋がれたゼノの馬の首を撫でながら首を振る。
「逃げるなら逃げていいよ。でも僕は行かない」
「なぜ!」
「せっかくバイロン国に潜入できるんだ。バイロン国内で今、なにが起こっているのか知りたい。それに…リアムにも会いたい」
「会ってどうするのです?第二王子はあなたのことを覚えていないではないですかっ」
トラビスに両肩を強く掴まれて、僕は顔を歪ませる。
「痛い!離せっ」
「嫌です」
「おまえは昔からそうだ。僕に反発する。僕はおまえの主だぞ」
「承知しております。ですので御身を心配してるのです。第二王子と会えば、さらに傷つきますよ」
「そんなの…わかってるよ!わかってるけどもう一度会いたいんだ。会って僕のことを…」
「思い出して欲しいのですか?思い出さなかったらどうするのですか?」
「どうしてそんな言い方をする…。おまえは…いじわるだ」
「申しわけありません」
僕は力なく俯いた。僕の足下にポタポタと透明の雫が落ちる。
僕は王として強くあらねばならないのに、どうしてこうも弱いのだろう。リアムとラズールの前以外で涙を見せるなんて。ダメだ。もっと強く気持ちを保たないと。
僕の頬に大きな手が触れて涙を拭う。
その手を払い除けて袖で顔を拭くと、僕は顔を上げてトラビスを睨んだ。
「これより僕の命に従え。従えないのならついてくるな。おまえが僕の身を心配していることはわかっている。だけど僕は城の中で何もしないで待ってるなんてできない。自分で動いてできることをしたい。幸いゼノは僕達の味方だ。この機会を逃したらバイロン国に潜入するのが難しくなる。トラビス、どうするかはおまえの自由だ」
「…あなたの命に従います。共に行きます。お傍を離れません。差し出がましいことを言って申しわけありませんでした」
「…許す」
トラビスがようやく僕の肩から手を離して頭を下げる。
そこへゼノが戻ってきて、漂う重苦しい空気に戸惑った表情をした。
戻ってきたゼノは、バイロン国の黒い軍服を持っていた。トラビスがそれに着替えている間に、ゼノが僕の髪を茶色に染める。
腰掛けるのにちょうど良い岩に座った僕の髪に触れながら、ゼノが口を開く。
「バイロン国で入手しようと思っていた植物が、ここにもあってよかったです。やはり変装してから国境を越える方が安全ですからね」
「こんな植物初めて見た…。きれいに染まるんだね」
「はい。それにこれは髪がサラサラになる効果もあります。ただ肌に合わない者いるので…。皮膚が痛いとか気分が悪いとかはないですか?」
「うん、大丈夫」
「それならよかったです。しかしフィル様はどのような髪色でもお似合いだ」
「そうかな?ありが…」
「ふんっ、そうか?フィル様にはやはり輝くような銀髪が似合う。この世界で最も尊いお方なのだからな」
「トラビス、なにを言ってるの。おかしなことを言うな」
着替え終わったトラビスが、腕を組んでこちらを見ている。凛々しい眉の間に皺を刻んで。
呪われた子である僕が尊いなんてことあるわけないだろうと僕はため息をついた。
「できましたよ」とゼノが髪から手を離す。そして魔法で小さな風を起こして湿った髪を乾かした。
「ここに鏡がないのが残念です。ぜひその姿を見てほしかった」
「変じゃない?」
「全く。ただ…」
「なに?」
「少し幼くなりましたね。可愛らしいです」
「…可愛らしい」
僕は肩から前に垂れた茶色く染まった髪を指に巻きつけた。ゼノやノアと同じ髪の色だ。落ち着いた髪色で大人っぽく見えるかなと期待していたけど、逆だったのか。
でもこれで僕が目立つことはない。緑の瞳が珍しいけど、銀髪より数がいる。
僕は「ありがとう」とゼノに声をかけて立ち上がり、トラビスの正面に立った。
「どう?街で見かけたとして僕だとわかる?」
「…俺の中にフィル様は輝く銀髪をしているという先入観がありますから、すぐにはわからないかもしれません。しかしラズールは瞬時に気づくでしょうね」
「そうかなぁ」
「そうでしょう。あなたが変装して調査について行った時も、彼はすぐに気づいたそうではないですか」
「そうだった…あの時は顔まで隠してたのに」
「ラズールのあなたへの執着は恐ろしいですから」
「執着とは?」と染めるのに使った道具を片付けていたゼノが、手を止めて聞いてくる。
僕は少しだけ空を見て考え「ゼノがリアムを慕う気持ちと同じだよ」と答えた。