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耀聖(ようせい)
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ささみチーズ。
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【一ヶ月後】
美羅が実家に戻ってから、空は何度も週末の予定を合わせようとした。
<ソラ、ごめんね。また疲れが出ちゃった>
久しぶりに声を聴けたのは電話だった――。
「どうしたんだ最近……まさか――」
<うん……調子が良くならなくてね。今、入院してるの>
「え……」
空は急いで病院へ向かった――。
だが、そこで待っていた現実は想像を遥かに超えていた。
【病院・集中治療室前】
「美羅……なんで……」
ガラス越しに見える彼女は、機械に囲まれ眠っていた。
手を握ることもできない――。
声を届けることしかできない――。
空の気配を感じたのか、美羅はゆっくりと目覚める。
ようやく、院内電話越しに彼女の声が聞こえた。
「美羅、大丈夫なのか?」
「ソラ……再発したの」
「え?」
美羅は静かに笑った。
「前とは違うの。今回は……先生も厳しいって」
彼女の病気は急性リンパ性白血病。
数年前、一度は奇跡的に克服した。
しかし医師からは告げられていた。
もし再発すれば、次は――。
「完治したんじゃなかったのかよ……」
「うん……私もそう思ってた」
少し間を置いて、美羅は続ける。
「実はね、一度ソラの家で倒れそうになったことがあったの」
「……」
「怖かった。でも、ソラに言えなかった――」
「なんで……」
「だって……」
美羅は少し寂しそうに笑った。
「やっと手に入れた幸せだったから」
「……」
「ソラと料理して、ご飯食べて、一緒に笑って……そんな時間が、もう終わるって言うのが怖かった」
空は必死に涙をこらえた。
「治そう。絶対に治る」
「ソラ……」
「また山に行こう。今度は安全なところでいい。猟の話も聞くから」
「ふふ……」
美羅は嬉しそうに笑った。
「ありがとう」
「まだ早いだろ、その言葉」
「ううん」
「ソラ……」
「あなたと出会えて、本当に幸せだった」
そして少しだけ迷うように言う。
「あの時ね……」
「?」
「怖かったの」
「何が?」
「ソラとの未来が無くなること」
空は息を止める。
「だから……少しでも私が残ればいいって思った」
「あの夜……」
美羅は小さく笑った。
「あなたの中に、私が生きていてほしかったの」
「美羅……」
「ありがとう、ソラ」
その言葉を最後に、面会時間が終わった――。
※※※※※
【翌日・病院】
「空さん……」
医師の表情で分かった――。
「美羅さんは夜中に急変しました」
「……」
「現在、意識が戻らず……しばらく面会はできません」
空は何も言えなかった。
ただ、ガラス越しの彼女を見ることしかできなかった。
それから数日後。美羅は静かに旅立った――。
※※※※※
【美羅の自宅】
「空さん……初めまして」
美羅の母、恵子は深く頭を下げた――。
「娘から、いつも話を聞いていました」
「……」
「最後にね……一度だけ意識が戻ったんです」
空は顔を上げる。
「あなたの名前を呼びました」
「……」
「混乱していて、色々話していました」
恵子は涙を流しながら続ける。
「でも最後は……」
「ソラ、ありがとう……って……そして眠るように……」
空は必死に耐えていた。しかし最後のお別れ。
安らかな美羅の顔を見た瞬間――。
「美羅……」
声にならない涙が溢れた――。
※※※※※
【リオンの自宅】
「リオン、空くんのところに行かないの?」
母、智子は心配そうに尋ねた。
「今は……駄目」
「好きなんでしょ?」
「うん」
リオンは俯く――。
「だからこそ駄目なの」
「……」
「空は今、弱ってる」
「そこで優しくして、私を見てくれたとしても……それは本当の空じゃないから」
智子は黙って頷いた。
以前なら、リオンは空を奪いたいと思っていた。
でも今は違う。
大切な人を失った彼を、自分の都合で利用したくなかった。
※※※※※
【翌週・金曜日】
ピンポーン。
玄関を開けると、食材を持ったリオンが立っていた。
「リオン……」
「空、久しぶり、入るよ」
「え?」
「私って空気読めるから。今まで来なかったんだよ」
空は少し笑った。
「ごめん……心配かけた」
「いいよ」
リオンは少し寂しそうに言う。
「美羅さん……私も悲しかった」
「空が好きだった人だから」
「ありがとう」
「感謝するなら……」
リオンは少し冗談めかして笑った――。
「今ならキスしてもいいんだよ?」
しかし空は静かに首を振った。
「《《今》》《《は》》……やめておく」
「え?」
「それは君に失礼だから」
リオンは驚いた。
「どういう意味?」
空は答えず、台所へ向かう。
「料理を作ろう」
その日の料理は、ワインとニンニクのチキンソテーだった。
「皮、柔らかいね」
「わざとだよ」
「え?」
「美羅は豪快な料理が好きだったけど、リオンはこういう方が好きそうだから」
リオンは少し驚く――。
空はまだ美羅を忘れていない。
でも――。
ちゃんと前を向こうとしている。
食事の途中。リオンは小さく呟いた。
「私ね……空のことが好き」
空は優しく笑う。
「知ってるよ」
「……」
「でも、もう少し時間をくれないか」
「うん」
リオンは頷いた。
「待ってる」
その言葉は、以前のような執着ではなかった。
ただ、大切な人を待つ覚悟だった。
※※※※※
【数年後・婚姻の誓いを結ぶ祭壇】
純白のドレス姿のリオンが、隣で笑っている――。
「ねえ空」
「ん?」
「あの時のチキンソテーが、披露宴の料理になるなんてね」
「君のおかげだよ」
「遅すぎだけどね」
「ごめん」
二人は笑った。
そして神父が告げる。
「それでは誓いのキスを――」
空は優しくリオンを抱き寄せる。
その姿を見守る人々の中には、美羅を知る者もいた。
美羅は消えたわけではない。
空の中に、リオンの中に、大切な思い出として残り続けている――。
「美羅さんの分も幸せにしてね」
リオンが小さく言う。
空は頷いた。
「約束する」
「忘れないでね」
「忘れない」
「美羅も、君も……どちらも俺の大切な人だから」
リオンは笑った。
そして二人は、新しい未来へ歩き出す。
かつて大切な人を失った少年は、二人の女性から愛をもらい。
もう一度、生きる意味を見つけたのだった――。
コメント
1件
ああ……もう、涙が止まらなかったです。 美羅が「ソラとの未来が無くなること」を怖がって、あの夜に決断したところ、すごく切なくて。でも、彼女のその選択が、空の中でちゃんと生き続けてるんだなって思えました。 リオンの「弱ってる時に優しくするのは違う」って台詞、すごく大人で、彼女の成長が眩しかったです。 最後の結婚式、美羅の分まで幸せにという誓いが、とても優しい終わり方でした。素敵な物語をありがとうございます。