テラーノベル
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「……なんや、この紙は」
俺は事務所のデスクで、ひまりが持ち帰ってきた一枚のプリントを睨みつけとった。
そこには太字で『PTA役員選出のお知らせ』と書いてある。
和幸が横から覗き込み、嫌な予感がしたのか、じりじりと後ずさりしおった。
「兄貴…それ、あれっすよ。親たちが集まって、学校の運営を手伝うっていう……地獄のボランティアっす」
「……ボランティア?ワシに、他のガキの世話まで焼け言うんか」
ひまりが、不安そうに俺の顔を伺っとる。
昨日の「パパ」という呼び名の余韻が残っとる今、ここで「面倒やから行かん」とは言えん。
「……しゃあない。ワシが行って、一発でケリつけたるわ。和幸、当日は一番『真っ当』に見えるスーツ用意せぇ」
当日
小学校の図書室に集まった保護者たちの視線は、一斉に俺に注がれた。
俺はボタンを一番上まで閉め、刺青を隠し、眼鏡をクイと押し上げて隅の席に座った。
やが、漂う「殺気」までは隠しきれんかったらしい。
俺の周りだけ、モーゼの十戒みたいにスペースが空いとる。
「…えー、それでは、本年度の学年委員長を決めたいと思います。どなたか、立候補される方は……」
先生の声が虚しく響く。
保護者たちは一斉に下を向き、気配を消しおった。
沈黙が続く。
この無駄な時間、ワシが一番嫌いなもんや。
「…なあ」
俺が低く声を出すと、図書室全体がビクッと跳ねた。
「……誰もやらんのやったら、ワシがやったる。……文句ある奴はおらんやろな?」
俺が周囲を鋭く一瞥すると、保護者たちは「ひ、ひぃっ!」「お、お願いしますッ!」と
蜘蛛の子を散らすように賛成しおった。
こうして俺は、小学校のPTA学年委員長という、前代未聞の肩書きを背負うことになった。
事務所に戻ると、和幸が腹を抱えて笑い転げおった。
「ギャハハ!兄貴、委員長っすか! 任侠道の次は、教育の道っすね!」
「……やかましいわ。やるからには、極道流で効率的に終わらせたる。…まずは、あの無駄に長い会議の資料、全部シュレッダーにかけて、LINE一本で済むようにしたるわ」
その夜、ひまりが俺の膝に乗って、嬉しそうに報告してきた。
「パパ、学校でね、お友達が『ひまりちゃんのパパ、とっても強そうでかっこいいね』って言ってたよ!」
「…そ、そうか…そら、何よりやな」
俺はひまりの頭を撫でながら、心の中で溜息をついた。
看板を下ろした事務所の奥で、俺は今、組織の抗争図の代わりに、運動会の警備計画表を広げとる。
「……和幸。…明日までに、近所の不審者情報を洗い出せ。PTA委員長として、通学路の安全を『武力』で確保する」
「……兄貴、それもうPTAじゃなくて、ただの自警団っすよ」
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