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話し合いの末に契約を終えた俺。今日はそのまま帰ろうと思って居たのだが、西園寺の要望により三人で飯を食いに行くことになった。
「アンタが行く場所ならよっぽど高い場所かと思ったが、ファミレスなんだな」
「別に高い場所でも良かったのですけど、今日ぐらいしか行く機会が無いので折角ならと思いまして……それと、その呼び方はやめなさいと言った筈ですが?」
「あぁ」
俺としても格式が求められる場所よりはこっちの方が落ち着くからありがたい。
「それで、何の話をするつもりなんだ?」
態々飯に誘ったということは、何かあるということだろう。
「えぇ、それですが……先に、老日さんの手に入れた素材について聞きたいですね。私も少し、興味があります」
「俺の手に入れた素材、か」
俺はサッと犀川に視線を向けた。犀川は難しい顔をしている。流石の犀川でも無い素材の話は不用意に出来ないか。
「……」
ここは、二択だな。採取した俺の血を素材と言うことにするか、新しく何かしらの素材を話に出すか。前者なら犀川には新しい物を見せずに済むが、最悪の場合だと西園寺にも俺の身体能力が露呈する。後者なら、西園寺に確認を求められた場合に実際に素材を提出する必要がある。
「まぁ、犀川が良いなら話すが……俺が採取した素材は、白に薄っすらと虹色が浮かぶ石だった。魔力を内包し、電気を良く通す石だ」
この石は実際にあるし、特異な性質を持つがそこまで価値の高い物ではなかった。|白虹石《はっこうせき》と呼ばれるこれは道中に無数に落ちていて、魔力を貯蔵しているので見つけ次第拾っていた。まぁ、これなら提出することになっても問題無いだろう。
「なるほど……どこで見つけたのですか?」
「殺した魔物の中から出て来た。特に珍しくも無い魔物だったからな……誰かが落とした物を偶々魔物が呑み込んだだけだと考えられる」
ふむ、と西園寺は頷いた。異界についてはそこまで詳しくないのか、それ以上踏み込んで来ることは無かった。
「まぁ、それは良いだろう。俺は本題について聞きたい」
「そうですね……そろそろ話すとしましょうか」
同時に、店員が料理を運んできた。俺はテーブルに置かれたデミグラスオムライスを手早く引き寄せる。
「あぁ、ちょっと待て。ドリンクバー行ってくる」
「……構いませんけど。水も一緒によろしいでしょうか?」
「あ、じゃあ私はホットのコーヒーで」
俺は頷き、席を立った。直ぐそこのドリンクバーで先ずはオレンジジュースを注ぎ、次に二人の希望したものを注ぎ、片手にコーヒーと水、片手にオレンジジュースを持って席に戻った。
「じゃあ、今度こそ話を頼む」
俺は席に座り、続きを促した。西園寺は水の礼に頭を少し下げてから、話を始めた。
「さて、話ですが……この東京は現在、危険な状態にあります」
「危険な状態?」
俺が尋ねると、西園寺は頷く。
「翠果ちゃんには少し話していたと思うけど……そもそも、この日本の中心地である東京は常に数多の危険な組織が潜伏しています」
マジか。犀川を見ると、コクリと頷いた。
「そんな東京ですが……一部の危険な組織が動き出しているという話があります。街中に現れる魔物、相次ぐ拉致事件。そして、悪魔の気配」
「悪魔の気配?」
不穏な話題だな。俺にとっては。
「えぇ、天暁会が悪魔の気配を千葉付近で察知したとの報告がありました」
良かった。俺のことはバレて無さそうだな。
「まぁ、確かにヤバそうだな」
「確かに腕の良いハンターであるなら、その程度の感想で終わるかも知れませんね」
西園寺は溜息を吐いた。
「ここからは秘匿事項です」
「……そんなこと俺に教えても良いのか?」
俺の疑問を無視し、西園寺は鞄から手のひらサイズの青いテントのような形をしたものを取り出した。その三角錐の表面には幾何学模様が走っている。
「魔道具か」
魔力が流れると、その三角錐の模様が水色に光り出した。
「結界に近いな」
「……腕が良いというのは間違いでは無いようですね」
この手の魔術は珍しくない。この魔道具の効果は、内から外への音の遮断と存在感の希薄化だろう。この魔道具の効果範囲は外の人間からはまるで無い物のように扱われる。とはいえ、当然ながら戦闘中に使っても大した効果は無い。既に意識が向けられているからだ。
「それでは、忘れないように聞いてくださいね」
俺は静かに頷いた。
「預言の巫女が託宣を賜りました」
預言の巫女。大層な肩書だな。
「曰く、黄金に輝く真鍮と鉄の指輪より知恵の王が蘇る。七十二の悪魔を操る魔術の王……ダビデの子、ソロモンが蘇る。蘇りし王の望みは支配。その手中に収めるは、青き星そのものである、と」
「……その預言とやらは外れないのか?」
西園寺は首を横に振った。
「巫女の予言が外れたことはありません。今まで、たった一度も」
どうやら、ソロモンとやらは蘇るらしい。もし会うことがあればゲームの画面でも見せてやろう。美少女になった自分を見た反応は少し気になるところだ。