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『 Re:Humanoid 』
⟡.· 𝚌𝚑𝚊𝚛𝚊𝚌𝚝𝚎𝚛
霧崎 あかり ( きりさき あかり )
高校1年生 : 15歳
角川 一華 ( かどかわ いちか )
高校1年生 : 16 歳
古田 祐希 ( こだ ゆうき )
高校1年生 : 15 歳
鈴鹿 仁 ( すずか じん )
高校1年生 : 16 歳
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数十年前、世界は一夜にして地獄と化した。
一人の「人造人間」が起こした反乱。
それは歴史上最も凄惨な虐殺事件として記録され、人々の心に癒えない傷跡を残した。
だが、その「張本人」たちが今、西日の差し込む穏やかな高校の教室で、ノートを広げていることを知る者はいない───。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
「ねえ、祐希!今日の帰り、駅前のクレープ屋寄っていかない?」
弾けるような声の主は、霧崎あかり。
ツインテールを揺らし、天真爛漫な笑顔を向ける彼女は、かつて数多の命を奪った殺戮兵器の一翼を担っていたとは思えないほど、眩しい「陽キャ」を演じていた。
「……またクレープかよ。お前、胃袋壊れても知らねーぞ。」
古田祐希は、気だるげにシャープペンシルを回しながら、あかりを茶化す。
彼の視線は、冷たく突き放す言葉とは裏腹に、いつもあかりの笑顔を追いかけていた。
幼少期、暗い研究所の隅で共に震えていた少女が、今はこんなにも明るく笑っている。
その奇跡を守りたいという本能が、彼の回路には深く刻まれている。
「失礼しちゃう!あんたこそ、さっきの数学、寝ぼけて指先から端子出かかってたじゃん!」
「あ?……マジか、あっぶね~。」
そんな二人のやり取りを、少し離れた席から角川一華は見つめていた。
彼女は、学校では誰もが認める優等生。
だが、その内面は常にエラーを吐き出し続けていた。
(……まただ。胸の奥が、熱い。)
一華は、祐希が好きだった。
けれど、その感情が「恋愛」であることを、彼女の論理回路はまだ正しく定義できていない。
ただ、彼があかりを見て笑うたびに、プログラムにないノイズが走り、視界が滲む。
あかりのことが大好きなのに、彼女に嫉妬してしまう。
そんな自分に吐き気がして、一華はギュッと拳を握りしめた。
「角川さん、大丈夫? オーバーヒートかな。」
不意に声をかけてきたのは、鈴鹿仁だった。
彼は四人の中で最も「人間」としての立ち振る舞いが完璧で、常に周囲をまとめるリーダー役だ。
だが、その瞳だけは、どこか遠くの「血の海」を見ているような冷ややかさを湛えている。
「仁くん……。大丈夫、なんでもないの。」
「無理は禁物だよ。君は自分を追い詰めすぎる。……昔からね。」
仁の言葉に、一華は息を呑む。
彼らには、人間の頃の記憶がほとんどない。
あるのは、博士の冷たい手と、改造手術の痛み、そしてあの大事件の「赤い空」の断片だけ。
「社会勉強」という名目で放り出された、この平穏な日常。
自分たちを改造した博士の意図も、自分たちが何者だったのかもわからないまま、彼らは皮膚を模した合成樹脂の下に、重い鋼鉄の心臓を隠して生きている。
「行こう、みんな。……霧崎さん、古田くん、クレープなら俺も付き合うよ」
仁が穏やかに呼びかける。
あかりが「やったー!」と叫び、祐希が「しゃあねえな」と肩をすくめる。
一華は、そんな三人の背中を追いながら、心の中で自分に問いかけた。
私たちが手にしたこの「自由」は、いつか許される日が来るのだろうか。
それとも、あの夜の罪を忘れること自体が、最大の罰なのだろうか。
西日に染まる校舎に、偽りの高校生たちの笑い声が響いていた。