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「おまえがどこかに行かないように、ブレーキかけてやんないとさ」

「陽さん以外、誰のとこにも行かないっす」


橋本に言われたように、180(ワンエイティ)との車間距離をあけて、遠くから車の動きを見えるようにした。


「雅輝ってば、穴を開けそうな勢いで、180(ワンエイティ)のケツを追っかけ回してたくせに」


執拗に自分を責める宮本の性格を知っているからこそ、橋本の口から出た言葉だった。


(あまりのしつこさに最初は辟易したのに、いつの間にかそうされないと物足りなさを感じるとか、俺もどうかしてるんだよな)


「陽さんなら、俺がそうなる理由くらいわかるでしょ?」

「まぁな。180(ワンエイティ)のドライバーから、ここを走り込んでる自信が走りに表れてるし、べらぼうに安定感がある。雅輝とは別の意味で、センスのあるヤツなんだろう」


タイトなヘアピンカーブの遠心力をやり過ごしながら指摘した橋本に、宮本は感嘆のため息をこぼした。


「俺のセンスと180(ワンエイティ)のドライバーのセンス、どう違うんですか?」

「こんな峠を、口にしちゃいけない速度で走る神経。つまり、頭のネジが外れてるって意味でだ。雅輝が左のネジなら、相手は右のネジじゃねぇの」

「陽さんその表現、どうかと思いますけど!」

「おっ、そろそろ頂上だな……ってなんか大勢のギャラリーがいるこの感じ、三笠山で見た光景に似ている気がする」


既視感のある雰囲気に、橋本は顔をひきつらせた。180(ワンエイティ)を羨望のまなざしで見つめるギャラリーの多さに、嫌な予感が走る。


「雅輝、急いで離れたところに車を停めろ。地元のヤツに絡まれてバトルにでもなったら、間違いなく面倒なことになる」


攻略できていない場所でのバトル――三笠山で崇め奉られていた宮本がバトルで負けたとなったら、えらい騒ぎになるのは、火を見るよりも明らかだった。


「わかった。向こうの空いてるスペースに停めるね」


宮本はギャラリーの目から離れるように、大回りで指図された場所に向けて徐行した。


「陽さん、ヤバい」

「どうした?」


無言のまま、宮本が左手親指で後方を指差す。それにつられて、橋本は後ろを見た。


「ゲッ! インプのケツに180(ワンエイティ)がくっついてる!」


「なにか気に障ること、俺ってばしちゃったのなかぁ」

「おまえが途中まで車間距離つめて、180(ワンエイティ)を追いかけ回していたからだろ。きっとどんなヤツが乗ってるのか、確認しについて来てるんだと思う」


宮本は観念して、橋本が停めろと言った場所にインプを停車させる。その隣に180(ワンエイティ)が駐車した。ギャラリーは遠くから、二台の車の様子を息を飲んで窺う。


「どうしよう。多分、地元の走り屋なんだろうなぁ。トランシーバーで俺たちの様子を知ってるから、あっちで見ているんだと思うんですよ」

「頼むから、売られた喧嘩を買うなよ。俺は生きて帰りたい」


橋本が泣き言を吐いた瞬間に、運転席の窓ガラスがノックされた。その音にふたりそろって車窓を見ると、メガネをかけた女がニッコリと微笑みかける。


「雅輝……」

「もしかして、180(ワンエイティ)のドライバー?」


慌てふためきながらもシートベルトを外した宮本が、急いで車を降りた。橋本も助手席から降り立ち、宮本の傍に駆け寄る。


「こんばんは! 私の後ろを追いかけることができるなんて、すごい人だなぁって思って、逢いに来ちゃいました」

「こ、こんばんはです。どうも……」


甲高い声に宮本はたじろぎ、視線を右往左往させた。そんな恋人の様子に、橋本は複雑な心境に陥る。

長い髪をポニーテールにし、服で隠しきれない巨乳を揺らしながら、メガネの奥から上目遣いで宮本を見つめる、ロリ顔の女。宮本のコレクションのひとつである、フィギュアのセンターにいるキャラにどこか似ているせいで、橋本は自然と敵意を抱いてしまった。

不器用なふたり この想いをトップスピードにのせて

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