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16. ◇世間知らず
「何かあった?
1年近くも香織の顔を見に帰ってこないっておかしいモンね。
啓吾はそこそこいい男だし、普通浮気疑うもんだよ?
そういうのなかった?
私の取りこし苦労ならよかったんだけど」
「そうなの?
紀ちゃんはそんなこと考えてたんだ。
言ってくれれば良かったのに。
私そんなこと何も考えてなくて――――。
突然のことだったから、責めることもできないで泣いて
帰ってきただけだったよ。
2人の店が持てるってそればかり考えてて……
この先の明るい未来だけ考えてて……
啓吾に恋人がいるなんて晴天の霹靂で、みじめな想いをして
昨日帰ってきたのよ。
馬鹿みたいでしょ? 」
「香織は悪くないし、馬鹿でもないよ。
ただ、どうしても離れ離れでいると、そういう可能性は
考えておかないと。
私は啓吾が香織に無理してあっちにこなくていいって
言い出した時、あれって思ったね」
16-2.
「私って世間知らずで鈍感な人間だったんだね」
「まぁまままま、そう自分を責めないで。
落ち着いて、落ち着いて……。
さぁ、深呼吸3回してみ♪」
「紀ちゃんには好きな人から裏切られた気持ちなんて
分かんないんだよ」
責めてもしようがない人に、責めどころが違うって
分かっているのに、私はそんな風に紀ちゃんを責めた。
だけど紀ちゃんは動揺もしなかったし、私を責めたりもしなかった。
とても落ち着いていた。
「大丈夫だって、私が付いてる限り啓吾のひとりやふたり側から離れて
いったって、大丈夫なんだってばぁ」
そう言うのだった。
紀ちゃんからそう言われると
私はそんな気がしてくるから不思議だ。
「へぇ~、紀ちゃんに私を落ち着かせて幸せにできる力があるとでも? 」
「あるよお~、あるさぁ~、絶対私があんたを守るよ」
紀ちゃんは力強く私にそう断言したのだ。
嘘でも何でもいい、私をこんな風に慰めてくれるのは、
この世にこの友しかいない。
ちょっぴりうれしくて、また涙がこぼれそうになる。