夏の盛りを思えばあっという間に日が暮れるようになったが、それでもまだ明るい夕方にウーヴェの家に向かった二人は、車内でもフロアに上がるエレベーターの中でも何故か互いの顔を見ることが出来ず、ただリオンが贔屓にしているアクセサリーショップにいた時のように小指だけで手を繋ぐ事しかできないでいた。
リオンを招き入れる為に今度はウーヴェが自宅のドアを開けていると、両手に荷物を持ったリオンがゆっくりと入った為、キッチンに荷物を置いてくれと告げてリオンの後をついていく。
キッチンの壁にくっつけるように置いた小さなテーブルに荷物を下ろし、スープの用意をしようとウーヴェが誘うと、くすんだ金髪が軽やかな音を立てて左右に振られる。
「食べないのか?」
お前が食べたいと言ったんだろうとリオンを見れば、堪えるのがそろそろ限界だと今にも言い出しそうな顔で見つめられて息を呑み、何時かのように壁に背中をぶつけてじっと見つめてしまう。
「オーヴェ」
分かっているだろうと、お前もそうだろうと目を細められて囁かれれば返事など出来ず、羞恥から視線を逸らせば逃げるなと顎を掴まれてしまう。
青と碧の瞳に互いの顔を映し合い、どちらもほぼ同時に唇の端を持ち上げたかと思うと、腕と背中を掴んで身を寄せ合う。
「・・・シャワーを浴びたい」
これだけはやはり何度身体を重ねようとも譲れないと内心苦笑しつつ告げたウーヴェだが、返ってきた答えに目を丸くしてリオンの肩に乗せた顎を引いてしまう。
「一緒なら良いぜ」
「リオンっ」
いつもいつも言っているだろうと、少しだけ語気を荒げるウーヴェにリオンは長閑な声で俺もいつも言っていると返し、今日は絶対に譲りませんときっぱりと言い放たれてしまう。
シャワーを浴びて汗を流した後、ウーヴェにだけ出来る気遣いからしている行為があるのだが、それをリオンに見せると考えただけでも卒倒しそうになるのに、当の本人は全く気にしないとケロリと言い放つのだ。
今回もまたその遣り取りを繰り広げるのかと深く溜息を吐くと、リオンがぽつりと呟いた。
「・・・ちょっとでも・・・離れたくねぇ」
三週間も顔を見ることも声を聞くことすらも出来なかったのだ。やっと再会しまたお互いに思いを伝える事が出来るようになった今、一分一秒たりとも離れていたくない。
子どもじみた我が侭と呼ぶには切羽詰まった色が滲む声にウーヴェが息を呑んで唇を噛みしめる。
今まで甘える様に一緒にいたいと告げられた事は何度もあったが、今のように焦燥感が滲んだような声は聞いたことがなく、その一言からも己の行動がどれ程陽気で快活な恋人の心を傷付けたのかを思い知らされ、背中に回した腕に力を込めて抱き寄せる。
「リオン・・・すまない」
昨日も告げたが、本当に悪かったと微かに震える声で謝罪をすれば、コツンと額に額が触れる感触がし、そっと瞼を閉ざす。
「謝って欲しい訳じゃない、オーヴェ」
これからもまた一緒にいる為に必要な言葉は謝罪ではなく別にあるはずだと密やかな声で囁かれて瞬間考え込んでしまうが、自信など無いながらも思い浮かんだ言葉を口の端に載せる。
「リーオ・・・ダンケ。これからも・・・一緒にいよう」
「もちろん」
大正解だと目を細め、白い頬をつるりと撫でられてその感触に笑みを浮かべれば、音を立てそうな程の笑みを浮かべてリオンがぎゅっと抱きしめてくる。
「オーヴェ、オーヴェ。愛してるっ」
「・・・・・・うん」
キッチンで抱き合いながらの告白がおかしかったし面映ゆかったが、黙っている事が出来ずに短い言葉で思いを伝え、こんな所ではなくお前が望む場所に行こうと背中を撫でれば、これからはずっと一緒にシャワーを浴びて身体を洗って貰うと子供顔負けの表情で言い放たれて絶句すると、ブラシやタオルはダメだからと釘を刺されてしまう。
そんな恋人の背中を拳で一つ叩いたウーヴェは、じろりと睨まれて無言で肩を竦め、低く唸るリオンを残してキッチンを足早に出て行くと、背後から響く足音にくすくすと笑みを零してベッドルームのドアを開け、バスルームへと進む直前に背中からがっしりとした腕に拘束されて口だけの文句をリオンに聞かせるのだった。
一緒にシャワーを浴びる事にはなったが、やはり必要な作業をリオンに見られる事だけはどうあっても矜持が許さず、頼むから一足先にベッドで待っていてくれと懇願し、宥め賺しキスでリオンを送り出したウーヴェは、慣れてしまった作業を手早く、それでも確実に終えてバスローブに身を包んだ姿でバスルームを後にする。
「リオン」
あっという間に解かれてしまうバスローブの紐を結びながら呼びかけたウーヴェは、返事がない事に顔を上げて小首を傾げて広い室内を見回してみるがその姿はなく、代わりにベッドルームのドアが細く開いていた。
ちゃんとドアを閉めろと口を酸っぱくして言ってもこれだと苦笑し、ウーヴェがベッドに腰掛けた時、リオンが小袋を手に戻ってくる。
「どうした?」
「うん、忘れてた」
大切なものを忘れていたと肩を竦め、ベッドに腰掛けたウーヴェの前に膝を着いたリオンは、ベルベットの袋を鄭重な手つきで開けて中身を掌にそっと取り出すと、リングピローに載せてウーヴェの顔近くに掲げて片目を閉じる。
「オーヴェのリザードだ。あ、でも名前はまだ無い」
「何だそれは」
リオンの家に向かう前に立ち寄ったアクセサリーショップで買い求めたリザードだが、リングピローの上で柔らかくシルバーに光っていて、小さな双眸もロイヤルブルーに煌めいていた。
店で見るときと家で見るときでは印象が違うのではないのかと危惧した事を不意に思い出したウーヴェは、リザードにもテディベアの様に名前を付けるのかと苦笑しつつ手に取ろうとし、押し止められて軽く眉を寄せる。
「俺のリザードだろう?」
「ああ、これはもうお前のものだ」
ウーヴェの僅かに不満の滲んだ声にリオンが笑みを浮かべるが、そっとリングを摘んで小さな輪の中からウーヴェを片目で見つめた後、小さな音を立ててリザードの頭に口付ける。
「オーヴェ」
「何だ?」
「お前は神を信じていないから、神じゃなくお前に誓う」
この先例えどのような事が二人の上に降りかかったとしても、いついつまでもお前を信じ、愛し続ける。
その突然の誓いにウーヴェが驚愕に目を瞠ってくすんだ金髪を見下ろしていると、先程リオンが口付けたリザードが左足の薬指にそっと嵌められていく。
その感触に身体を震わせるが、金属のもたらす冷たさなのかそれとも言葉がもたらす何かなのかが咄嗟に判断出来なかったウーヴェは、己の左足がリオンの膝に載せられリングを嵌めた足にそっと口付けられてきつく目を閉じる。
今まで何度となく耳にしたことのある言葉の中で最も重く深く心の中に沈んだそれに身体が自然と震えるが、見上げてくるリオンの頬を両手でそっと挟み込んで震える声で名を呼べば、密やかな願いが二人の間にぽつりと落ちる。
「俺が持てる力でお前を守る。だからお願いだ。俺を信じてくれ。お前も俺を・・・愛してくれ」
「リーオ・・・っ!」
込み上げる感情に邪魔をされてしまって名を呼ぶだけで精一杯だったウーヴェは、ベッドから尻を浮かせてしがみつくようにリオンの首に腕を回して目を閉じる。
伝えられた言葉の重み、それに混ざった真摯な思いは己の中にあるものと同一のもので、同じ言葉でそれを返したかったが、過去からの声に邪魔をされて上手く言葉が出てこなくなり、しがみつく腕に力を込めれば緊張を解すように背中を撫でられ、その動きにあわせて言葉が迫り上がってくる。
「・・・お前を信じ、愛している。・・・お前にだけ誓う」
この命が終わりを迎えるその時も、その後の魂という朧気な存在に成り果てたとしても、お前を愛している。
漸く言葉にすることが出来た安堵から小さく溜息を零したウーヴェをしっかりと抱き留めたリオンは、もう一つの袋を何とか開けて小さな石が嵌っているだけのシンプルなピアスを取りだし、ウーヴェの手に握らせる。
「オーヴェ、お前の手で付けてくれないか」
「ああ」
手の中できらりと光るピアスを細めた目で見つめたウーヴェは、リオンが最も痛かったと笑った場所に嵌っているものを外し、不慣れな手つきで青い石のついたピアスをそっとそっと嵌めていく。
「よく似合っているな」
「お前が選んでくれたんだぜ」
似合わないはずがないと男前な笑みを浮かべて見上げてくるリオンに頷き、ベッドに上がってこいと無言で促せばベッドを軋ませながらリオンがウーヴェの身体の上に腹這いになる。
ウーヴェの足とリオンの耳に嵌められた誓いの証が、窓から入るまだ明るさを保っている夕刻の光にきらりと煌めいたのを合図に、リオンが笑みを浮かべてバードキスを繰り返し、ウーヴェもそれに応えながら笑みを浮かべる。
「何か照れくさいな」
「お前がそうなら俺もそうだと思わないか?」
「初めてのガキみたいにさ、突っ込んだ瞬間に終わっちゃったらゴメンな、オーヴェ」
「バカ」
繰り返すバードキスのうち2回に1回はしっかりと唇を重ねるように変化させ、気がつけばどちらも離れる事が惜しいと思うようなキスを繰り返す。
その合間の笑み混じりの言葉遊びの様なそれすらも楽しんだ二人は、そろそろどちらも焦れてきた事を伝えあうように身体を押しつけあって熱が溜まり始めた事をも伝えあう。
「・・・最近の子供は発育が良いんだな」
下腹部から腿にかけて触れる熱に気付いたウーヴェがにやりと笑みを浮かべて問えば、どうやらそうらしいなとリオンが嘯くが、好きだろうと低く問われて息を呑む。
もちろんとも、ああとも返せなかったウーヴェだが、当然との思いを伝える為にバスローブの背中に軽く爪を立てる。
「ぃて」
「うるさい、バカタレっ」
「はいはい。お前の口はそんな事を言う為だけにあるんじゃないだろう?」
顔を寄せ合いながらの言葉遊びにどちらも笑みの質を変え、互いのバスローブを脱がせるように手を差し入れて肩から落としていく。
背中を浮かせて腰も浮かせ、着心地の良い生地からリネンの感触に背中が包まれた事に気付き、手にしていたリオンのバスローブもベッド下へと投げ出すと、見下ろしてくる恋人の頭を抱えるように腕を回し、キスから先へと進もうと全身で誘いかけるのだった。
己の身体に突っ伏すリオンの背中に腕を回したまま横臥し、何をしたいのかに気付いたリオンが自ら寝返りを打ってくれたお陰で今度はウーヴェがリオンの上に腹這いになる。
自分とはまた違う白い肌に口付け、同性から見ても憧れそうな胸板に口を寄せてちらりと上目遣いで見つめれば、小さく首を傾げたリオンが見下ろすように頭を擡げていた。
「あれ?今日はお前からするのか?」
「・・・駄目か?」
「まさか。大歓迎だ」
どうせならば最後の最後までやってくれと、唇に太い男前な笑みを浮かべたリオンは、ちょっと待てと押し止めた後、枕をベッドヘッドに立て掛けて両膝を立てた姿でもたれ掛かる。
「はい、どうぞ」
「・・・バカッ」
「はいはい」
どうぞと言われてしまえばやけに気恥ずかしくて、これから己がしようとしている事を思い描くだけで顔を染めてしまうが、誘うように頬を撫でられ顎を指先で撫でられて耳朶を軽く摘まれてゆっくりと顔を腹に寄せ、臍をぺろりと舐めればくすぐったそうに腹筋が上下する。
その動きを視界の端に納めつつ、色素の薄い繁みを越して半ば形を持ったものを片手で包んで口に運べば、髪の中に手を差し入れられて先を強請られてしまう。
その願いを聞き入れるように、だが少しの悪戯心を覗かせるように上目遣いでリオンを見つめたウーヴェは、口内に迎え入れようとしていたそれの先を舐め、ちろちろと赤い舌を見せつけるように先だけの愛撫に集中する。
「オーヴェぇ・・・先ばっかじゃなくてさぁ・・・」
さすがにむず痒い様な焦れったさが募るそれにリオンが不満の声を挙げるが、ウーヴェが緩く勃ったものの根元に手を添えたかと思うと、いつもされているように指で軽く戒める。
自分がするのだから楽しませろ、好きにさせろと言外に告げたウーヴェにリオンが深々と溜息を吐くが、視線が重なった時を狙って細めた双眸に凶暴な光を湛えて唇の両端を持ち上げる。
「イイぜ、お前がそう望むのなら好きにしろよ」
その代わり、満足した後は俺の好きにさせて貰うと、ウーヴェの背筋を戦慄にも似た何かが駆け上がるような声音で囁き、お好きなようにとウーヴェの髪を撫でたリオンにダンケと囁き、先だけを舐めていた舌を使って根元まで唾液に濡らした後、一気に喉の奥にまで招き入れる。
生温かいものに包まれる感触にリオンが僅かに声を挙げた事が嬉しかったのかどうなのか、ウーヴェが忙しない動きで口内で次第に容量を増すものを一心に舐め咥え続けるが、さすがに呼吸が苦しくなった為に口を離すと、髪に差し入れられていた手が顎に移動し、息をつく為に開けた歯に親指が引っ掛けられる。
「────ん・・・っ・・・は・・・」
「な、このまま口の中に出してイイか?」
今度はリオンの親指を舐め爪の形を確かめ軽く歯を立てたウーヴェに問い掛けると、僅かに首が傾ぐが次いで白っぽい髪が間違い無く上下に揺れる。
「いちいち聞かなくて良い・・・っ」
「んー、でもさ、聞いてみたいだろ?」
その答えを出す瞬間のお前の顔が好きなんだからと目を細められ、どんな類の言葉も返せなかったウーヴェは、悔し紛れに親指を少しだけ強めに噛んでリオンに小さな悲鳴を上げさせる。
「ぃてっ!」
「うるさいっ」
完全に形を持ったものを咥えながら不明瞭な言葉で囁いたウーヴェは、リオンの大きな掌が再度髪に差し入れられて引き寄せられた事に気付いてその誘いに乗るように喉の奥にまで招き入れ、やがて熱を弾けさせるまで一心不乱に愛撫し続けるのだった。
リオンの大きな掌が肌の上を滑り、腹につきそうな角度を保ったそれが触れた場所から熱が生まれ、血の流れに乗って全身へと伝播する。
足に当たるものがやがて入り込んでくる中に指を入れられ、解すように動かされ突かれて顎が上がり、敏感にならざるを得ない場所を刺激されて唇を噛みしめる。
抱え上げられた足が緊張に震えた時、体内をまさぐっていた指が名残惜しそうに出て行った為、無意識に安堵の溜息を零すが、次いで入ってきたものの熱さと大きさに身体が自然と竦んでしまう。
「────ぅ・・・ん・・・っ──ッ!!」
「・・・・・・オーヴェ、力、抜けって・・・」
久しぶりに中で受け止めようとする熱と質量に身体が緊張し、どうすることも出来ないと頭を左右に振りシーツを握って緊張をやり過ごそうとするが、身体が裂かれるような痛みにも似た何かにイヤだと頭を振る。
ウーヴェの手が白くなるまで力を込めてシーツを握った事に気付いたリオンが小さく溜息を零し、先だけを挿入していた場所から抜け出すと、安堵の溜息をシーツに落としたウーヴェの上を跨ぐ様にサイドテーブルに手を伸ばして常備してあるローションを手際よく掌に垂らして擦り付け、残りをウーヴェの尻に塗り込める。
「・・・っ!!」
その滑りに息を呑むウーヴェとこれならば大丈夫だと胸中で呟いたリオンが肩越しに視線を重ねるが、程なくしてウーヴェが頭を持ち上げてリオンの顔に近付ける。
背中からウーヴェの身体を抱くように腕を回していたリオンは、何を求めているのかを素早く察して求めに応じるようにそっと唇を塞ぐと、ウーヴェが差し入れた舌を絡め取って逆にウーヴェの口の中で舌を絡め唾液を混ぜ合うようなキスをする。
そしてその隙を突くようにもう一度先を宛がったリオンは、キスを交わしたままのウーヴェの中に再度ゆっくりと時間を掛けて自身を推し進め、先程とは違って熱い襞に包まれる感触に一瞬息を詰める。
冗談で語ったように突っ込んだだけで出してしまいそうだと苦笑し、腰をグッと押しつければウーヴェが頭を振った為に唇が離れてしまう。
「ん────ァア・・・っ!!」
「は・・・っ、やっぱ・・・お前の中最高っ・・・気持ちイイ」
最高に気持ちイイと、今まで付き合った誰からも得られなかった快感に自然と腰を震わせたリオンは、突っ張る足をより一層抱え上げるように下から腕を回すが、腹の前でシーツを握っていたウーヴェと指を絡めてしっかりと手を握りしめる。
シーツを握るぐらいなら自分の手を掴んでいろと、汗でしっとりとした白っぽい髪に見え隠れする耳に囁きかけると、その言葉に大人しく従うように手に力が込められる。
いつものことを思えばその素直さがただ愛おしくて、汗の浮く首筋にキスをし、肩に吸い付いて痕を残しながら腰を押しつけて身体全体を仰け反らせる。
間近で上がる嬌声を堪えたようなくぐもった声に満足気に目を細めるが、我慢することのない声を聞きたいと強請り、どうあっても声を堪えきれない場所を突き上げてぼろりとそれを零させると、ウーヴェの腹がひくひくと上下するまで同じ場所ばかりを擦って突き上げてやる。
その強い押し上げる力に合わせるように声が零れ、リオンの手を握る手にも力がこもるが、二人ともその手を離そうとはしなかった。
手の甲に立てられた爪がもたらす痛みも、またこれからも一緒にいようと二人で誓い合ったからこそのものだった。
その痛みすら愛おしかった。
ウーヴェが好きだからと言う理由でバックから抱いていたリオンは、今この瞬間の恋人の顔を見てみたいと唐突に思いつき、そっと抜け出すと同時に肩を掴んでシーツに背中を触れさせると、ぼうっとした目で見つめられて鼻先にキスをする。
何をするんだと目で問い掛けてくるウーヴェの膝の裏に腕を通して両足を抱え上げれば、端正な顔が反らされて目尻にある小さなホクロが真正面にやって来る。
足を抱え上げてウーヴェの胸に着きそうな程折り曲げさせたリオンは、身体の横に手を突いてしっかりと支えにしたかと思うと、ウーヴェが目を閉じて息を吐いたのを目敏く見つけて難無く受け入れてくれるそこにゆっくりと身を沈めていく。
身体の反発を優しい強さで抑え込みながら腰を押しつければ、シーツの上で握られていた手が伸ばされてリオンの手の甲に重ねられたかと思うと、しっかりと手首を握りしめてくる。
その動きから先々を許された事に気付き、ウーヴェの口から悲鳴じみた嬌声が零れ落ちる程激しく腰を打ち付け、抱えて押さえつけた足が不自然な程伸ばされるまで掻き回せば、きつくきつく手首が握られた直後、ウーヴェの薄い腹の上にぽたりと滴が落ちていく。
ああ、自分を感じて快感を得てくれているんだと頭の片隅で思案したリオンの前、ウーヴェが額を押さえるように手を持ち上げて肩を揺らして薄い腹を何度も上下させる。
「オーヴェ・・・」
昨日も今朝も言ったが、頼むから泣かないでくれと顔を寄せて囁き、泣いていないとこれまた今朝と同じ言葉が返ってくるが、その声は明らかに涙声で、信じられねぇとリオンが苦笑してしまうほどだった。
気持ちよさのあまりの涙なのか、それとも別の理由なのかが判断出来ず、眦から伝い落ちた涙の跡を指の腹で辿り、噛みしめられた唇を宥めるように何度も舐める。
「お前に泣かれたら・・・ガマンできねぇ」
だから頼むから泣かないでくれと、僅かに情けなさを滲ませた声で懇願すると、ウーヴェの腕がそっと上がり、両肩に載せられたかと思うと身体を引き寄せられる。
「────我慢など・・・するな・・・っ!」
お前は我慢などする必要は無いと、涙声ながらも決して逆らう事の出来ない強い声に囁かれ、蒼い眼を思い切り瞠ったリオンだったが、後で文句を言うなと囁いて同意を示す様に背中を撫でられる。
右手でウーヴェの左足を撫で、指先へと辿り着いた手に触れたリザードのリング。それを嵌めるときに交わした誓いを脳裏に浮かべるだけではなく再度告げたリオンは、俺も愛していると返されて笑みを浮かべ、ウーヴェの中を限界まで突き上げて頭を仰け反らせる。
荒い息と堪えることの無くなった嬌声をもっと高く大きくさせる為、ウーヴェの身体を抱き起こして座り込んだリオンに自重で最奥を突き上げられて息を呑んだウーヴェがしがみつくように腕を回す。
リオンの突き上げに合わせて嬌声が上がり、白っぽい髪が左右に揺れてリオンの耳目を楽しませる。
そんな合間に間違い無く二人の中に存在する情愛を確かに感じ、その上で快楽の海で二人心ゆくまで溺れてしまおうと囁きかければ、ピアスの嵌った耳朶をじっとりと舐められるのだった。
ウーヴェの腹が自らが吐き出した欲情の証とリオンのそれに汚れる事すら気にならなくなる程互いを求め合い高い嬌声を上げ続けていたが、何度目かも数える事すらしなくなった熱の解放の後、ブラインドを下ろしていなかった窓を見ればすっかりと日も暮れていて、世界は闇が支配している事を教えてくれていた。
ぐったりと指一本動かす事すら億劫だと言いたげに呼吸をするウーヴェの頬にキスをし、喉が渇いたと掠れた声に囁かれてベッドから降り立ったリオンは、素っ裸のままキッチンへと向かい、戻ってきた時にはミネラルウォーターのボトルと開け放ったビール瓶を手にしていた。
ウーヴェにボトルを差し出した後ビールを飲み干し、同じく水を飲んだウーヴェの横に寝そべったリオンは、寝返りを打って顔を胸元に寄せて来るウーヴェに気付いて疑問の声を挙げる。
「どうした?」
「────リーオ・・・俺の太陽」
「っ、うん・・・どうした?」
コツンと触れる額の温もりと前髪のくすぐったさに顔を顰めるが、何とかそれを押し殺してどうしたと肩を撫でてやれば満足そうな吐息が胸の上に零される。
「うん・・・・・・お前が知ってくれて・・・良かった」
自分の過去を知るのがお前で、本心を知るのもお前であることは本当に幸福なことだと密やかな自慢が滲む声に囁かれて口を閉ざし、肩を撫でた手を腰に回して抱き寄せる。
「俺も、お前で良かった」
「ありがとう」
「オーヴェぇ・・・そんな事を言うから・・・」
またお前の中に入りたくなっただろうと、些か情けない声で告白した後、何とも言えない沈黙が流れたかと思うと、ウーヴェの手がリオンの首へと回されて逆に抱き寄せられる。
「我慢するなと言っただろう・・・?」
「本当に良いのか?」
「ああ」
お前が満足するまで抱きたいのならば抱けばいい。体力がある間は付き合ってやると囁かれて嬉しそうな笑みを浮かべたリオンは、そう言う事ならば喜んでとウーヴェの手を取って手の甲に口付ける。
「────熱いな」
ぽつりと漏らされる言葉の真意をしっかりと読み取ったリオンは、もうすぐお前の中も同じ熱さになると笑みを浮かべ、彼方此方に情交の痕が残る身体を引き寄せて唇を重ねるのだった。
その後、ウーヴェがリオンに振り落とされないようにしがみつくように腕を回し、緩急を付けた動きに身体を仰け反らせるが、嬌声の合間にリオンの名を呼び続ければ、その度に優しいキスであったり同じ思いを込めた声がウーヴェに届けられる。
リオンだけではなくウーヴェも満足するまで抱き合って快楽の海に沈み込んだ二人は、結局そのまま夜明けの気配が近付く頃合いまで互いから離れることが出来ないのだった。
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