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「ゆずき!」
「えっ!?」
助手席側の窓を開けて呼び止めると、不審そうに車の中を覗き込んできた。
「ゆずき、俺だよ」
「けっ、圭太――」
「久しぶりだな」
「ホントに久しぶり。荻野さんのお葬式以来だね」
「少し話さないか?」
「いいけど――」
「助手席に乗りなよ」
「うん」
ゆずきは車に乗ると、どこかソワソワと落ち着かない様子だった。
「何か懐かしいね」
「何が?」
「こんなに狭い空間で2人きりになるのは、あの時以来だね」
「あぁそうだな。中学の時、帰宅途中で突然ゲリラ豪雨にあって慌てて入った電話ボックス――」
「憶えてたんだ?」
「忘れる訳ないだろ。ゆずきに緊張している姿を見せたくなかったから冷静を装ってたんだ」
「私もだよ」
「そうだったのか――」
「うん――」
何だかお互いに照れ臭くなって、しばらくの間、沈黙が続いた。
「それより、マナと一緒じゃなかったのか?」
「それが――」
ゆずきは言葉をつまらせ、バツの悪そうな顔をしていた。
「何かあったのか?」
「――――」
「何だよ、言いづらいことなのか?」
俺は、助手席のヘッドレストに手を置くと、何も言おうとしないゆずきにつめ寄った。
「実はね――招待されたレストランのオーナーが、マナのことを気に入ったみたいで、食事の後に2人で出掛けて行っちゃったの。わっ、私はもちろん止めたんだよ。でもマナは私の言うことなんか昔から全然聞かないから――」
「それじゃあ、今もその人と一緒ってことか?」
「そうかもしれない――」
「1時間くらい前に電話で話した時は、BARで酒を飲んでるって言ってた」
「マズいんじゃないの? 酔った勢いでってこともあるしさ」
「わかってる」
「あのさ、圭太とマナって一体どうなっちゃってんの? 婚約してた話は?」
ゆずきは、俺の視線を上手くかわしながらそう聞いてきた。
「そんなの過去の話だよ。今はただの友達というか同居人だよ」
「もしかして、マナに何も話してないの?」
「まぁな」
「言いづらいのはわかるけど、今のままでいい訳ないでしょ! 圭太が言わないなら私がマナに言ってあげる」
「いいんだ、言わないでくれ」
「どうして? 圭太とマナは結婚が決まってたんだよ。2人とも一生共に生きて行く覚悟を決めたから結婚することにしたんでしょ?」
「当たり前だろ」
「わかってるなら言わなきゃダメだって!」
月明かりに照らされて、より一層赤くなったゆずきの怒った表情が印象的だった。