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「でも、マナはその時の記憶がないんだ。そんなマナに俺と婚約していたことを話すのは押しつけがましいだろ。マナだって困るだろ――」
「でも圭太の気持ちはそんな簡単な問題じゃないでしょ? 圭太にとってマナとの結婚は現在進行形な訳でしょ?」
「もう過去形だ」
「そんなのウソ!」
「そう思わなきゃやってられないんだよ!」
「圭太――」
それからしばらくの間、気まずい空気が流れた。俺はただ外を眺め、ゆずきはうつむいていた。
「ごめん、私帰るね。何もしてあげられなくて本当にゴメン!」
「何でゆずきが謝んだよ」
ゆずきの俺を見る眼差しは何かを言いたげに見えた。
「じゃあ、またね」
ゆずきは車を降りると、後ずさりをしながら俺に手を振っていた。そして前を向いて歩き始めると、1度も振り返ることなく、その場を立ち去って行った。
それから俺は駅に行き、マナを待った。1時間近く待ったけど、マナは現れなかった。そしてとうとう最終電車がやって来る時刻になってしまった。俺は車を降りて改札口まで行き、マナが出てくるのを待った。しばらく待っていても、マナが現れることはなく、駅には誰一人としていなくなった。俺の頭の中を不安と言うか、嫌な予感が駆け巡っていた。
まだ一緒なのか――。車の中で眼を閉じていると、良からぬことばかりが脳裏をよぎって胸が痛くなった。
プルルルル――プルルルル―――
『もしもし――』
『もしもし、圭ちゃん今どこにいるの?』
マナからの突然の電話だった。
『どこって――マナを迎えに駅に来てるんだよ』
『迎え来なくていいって言ったのに』
『心配だから迎えに来たんじゃないか! 心配しちゃダメか?』
『そんなことないよ。嬉しいよ。私を本気で心配してくれる人なんて圭ちゃんしかいないから』
『当たり前だ。それより今どこにいるんだ?』
『家だよ』
『家? どうやって帰って来たんだ?』
『ゆっ、ゆずきちゃんと一緒にタクシーに乗って帰ってきたんだよ』
『――――』
どうして嘘なんかつくんだよ。俺に気を遣っているつもりなのか――
それとも後ろめたい気持ちでもあるのか――。
『どうかしたの?』
『どうもしてない。ゆずきは元気だったか?』
『元気だったよ。食事した後、カラオケに行ってきたよ。そこで少しだけお酒をのっ――』
『もういい! わかった』
これ以上、マナの嘘は聞きたくなかった。
『圭ちゃん、怒ってるの?』
『どうして俺が怒らなきゃいけないんだ。マナはゆずきと一緒にいたんだろ? 俺が怒るようなことはしてないんだろ?』
『―――――。圭ちゃん、あのね――実は――』
『腹減ってないか?』
『えっ!?』
『腹減ってないかって聞いてるんだ』
『減った』
『帰ったら何か作ってやるから待ってな』
『うん』
これ以上、マナの口から何も聞きたくなかった。