コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「『世界で一番大切な女と結婚するから、幸せになる。安心して』って言ったんだよ」
「…………っ」
彼の言葉を効いた瞬間、私はポッと赤面する。
尊さんはそんな私の顔を見て微笑むと、明るく言った。
「トリュフが待ってるぞ」
「はいっ」
ランチは小牧さんたちの希望で、フレンチを食べる事になっている。
「楽しみだな……」
呟くと、聞き漏らさなかった尊さんはクスクス笑った。
**
ビル一階にあるフレンチレストランは、テラス席がとても広い。
大きな窓の向こうには緑が見え、もう少ししたら一面の桜が見え、桜のコースもできるとか。
まだ肌寒い日もあるので、私たちは中の個室で食事をする事になっていた。
お二人はまだ来ていないようで、座って待っていたら予約時間を少し過ぎて小牧さんと弥生さんが現れた。
「やーん、遅れてごめんね。変なのに捕まってて」
小牧さんは両手をあわせて謝り、ピンときた私は尋ねる。
「ナンパですか?」
その言葉を聞き、美人姉妹は顔を見合わせる。
「……そうなの?」
「……なのかもね? しらなーい」
お店で会った時は小牧さんは和服だったけれど、今日は大人っぽい黒のシースルーワンピを着ていた。
弥生さんは黒い襟がついた、スモーキーブルーのプリーツワンピースだ。
飲み物のメニューを渡された二人は、迷いなくシャンパンをオーダーする。
尊さんも「軽く一杯入れとく」とスパークリングワインを頼み、私はとても迷った挙げ句、大人しくクランベリージュースにしておいた。
「ラスボスを前に、どんなお気持ちですか?」
小牧さんが丸めたおしぼりを持って、尊さんにインタビューしてくる。
「……あのなぁ……」
彼は呆れた表情をして水を飲み、大きな溜め息をついてから言った。
「お陰様でちょっとソワソワしてるよ。こんな強引な手段、考えた事もなかったから」
尊さんの答えを聞き、小牧さんと弥生さんはハイタッチする。
「「いぇーい」」
「『いぇーい』じゃねぇよ。盛大に滑ったらどうしてくれるんだ」
彼は呆れて言うけれど、二人はニコニコ顔だ。
「たとえお祖母ちゃんが激怒したとしても、私たちは絶対に味方するから大丈夫。お祖母ちゃん、私たちには甘いから出禁にはならないと思うし、いけるいける」
……随分軽く言うけれど、多分それだけの自信はあるんだろう。
その時、飲み物が運ばれてきて乾杯をした。
「……お祖母様は優しい方ですか?」
尋ねると、小牧さんは「ぷはー」と美味しそうにシャンパンを嚥下してから、皮肉げな笑みを浮かべた。
「|百合《ゆり》はツンデレね。複雑な女よ」
百合さんって言うんだ……。
「あ。……もしかして、さゆりさんって名前、百合の……」
〝ゆり〟が重なっているので思わず言うと、尊さんが頷いた。
「多分、そうみたいだ。長女だったし思い入れが強かったんだろう。ちえり叔母さんは名前の音が少し似てる感じだな」
今さらながら、さゆりさんが如何に愛されていたかを知って、複雑な気持ちになる。
小牧さんはシャンパンを一口飲んで言う。
「んまー、さゆり伯母さんとうちの母に関しては知っての通りで、私も相当ピアノの期待を寄せられたんだけど、料理の道に進んでしまったから、ガッカリはさせたわね。でもさゆり叔母さんの事で痛い目を見たからか、お祖母ちゃんは私にピアノを強制しなかったし、料理の道に進んだからといって冷たくされた事もなかった」
彼女の言葉を聞き、私はホッと安心する。
その時、アミューズが運ばれてきて、可愛い料理に女性陣が沸く。
茶色い玉子の殻を綺麗にくりぬいた中に、トロトロのスクランブルエッグを入れ、トリュフをのせたブイヤードだ。
三人とも無言で写真をと撮り、「いただきます」を言ったあと、小さなスプーンで食べ始めた。
小牧さんは一口食べて「おいし」と微笑んだあと、話を続ける。