灰色の空の下、燃え残る街の瓦礫の間で、光の羽を背負った少年は剣を握って立っていた。
「悪魔は、倒すべき存在…」
教え込まれた言葉が、鐘のように頭の奥で反響する。
振りかざした剣に、まだ動く悪魔の影が映る。揺らめくその輪郭は弱々しく、今にも消えてしまいそうだった。
光が触れた瞬間、周囲の悪魔たちは音もなく崩れ落ちる。
塵となり、灰となり、風に溶けていく。
だが、その中でひとりだけ、膝をつき、震える手を差し伸べる影があった。
小さく、か細い呼吸。
傷ついた翼のような黒い影が、瓦礫に絡みつく。
少年の胸が、なぜかざわめく。
「…倒すべき相手…だよな…?」
呟きは、自分に向けた確認だった。
息を呑み、剣を止めたまま立ちすくむ少年。
悪魔は言葉もなく、ただ見上げてくる。
その瞳の奥には、恐怖や絶望、そして微かな諦めが交わっていた。
抗う力も、憎しみもない。
ただ、終わりを待つ者の静けさ。
その表情は、少年が想像していた「敵」のものとは少し違っていた。
少年は意識的に剣を握り直した。
けれど、心の奥底で、何かが動いた。
これまで『正義』と信じてきたものが、ほんの少し、揺れた瞬間だった。
瓦礫の間に残る静寂の中、少年の思考は途方に暮れる。
「守るべきものは、天界の秩序か?それとも、この小さな命か?」
問いかけは、答えのないまま、胸の奥で重く沈み込んだ。
その時、悪魔がかすかに口を動かした。
「…助けて…!」
たった一言。
それは悲鳴でも、呪詛でもなかった。
ただ、生きたいと願う音。
少年の鼓動が大きく跳ねる。
世界が、一瞬だけ音を失った。
剣先が、わずかに下がる。
決められた運命。
選ばれた役目。
揺らぐはずのない光の使命。
そのすべてが、静かに、しかし確実に軋み始めていた。






