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「…アゼリア…アゼリア・エリオス!」
名を呼ばれて、はっと我に返った。
ぼんやりと霞んでいた視界が、少しずつ形を結んでいく。
白い天蓋。
淡い光。
鼻先をくすぐる、治癒香の匂い。
「ここは…?」
喉がひりつき、声は思ったよりも掠れていた。
「治癒室だよ。君は、悪魔討伐戦から帰還した直後、突然気を失ってね…」
癒しの天使が、安堵したように微笑む。
ーーあぁ。
記憶が、ゆっくりと繋がっていく。
荒れた戦場。
剣の重さ。
そして…帰還。
私は、また前線に出ていたのか。
「ご迷惑を…お掛けして、申し訳ございません。」
反射的にそう言って、身体を起こそうとし、痛みに顔を歪める。
まだ、感覚が完全には戻っていない。
「無理しなくていいよ。君、相当消耗していたからね。」
「…はい」
確かに。
傷を負うことには慣れていた。
血を見ることも、死を間近に感じることも。
それでも、気を失ったのは、初めてだった。
戦争には、もう慣れたはずなのに。
「少しは、休んだ方がいい。今は身体を優先して。」
「ありがとうございます…」
そう答えながらも、胸の奥に沈んだ違和感は消えなかった。
癒しの天使は、少し言いづらそうに視線を逸らし、それから思い出したように口を開く。
「あ、でも…その前に」
「…?」
「大天使ミカリス様から、君にお呼び出しがあったんだ。例の、捕虜にした悪魔の件でね」
「……っ!」
心臓が、嫌な音を立てて跳ねた。
ーーそうだ。
私は、連れて帰ってしまったのだ。
討つべきだった悪魔を。
殺すことができず、命を救ってしまった。
あれが知られれば、どうなる。
ミカリス様が、それを黙って見過ごすはずがない。
頭の中に、冷たい予感が広がる。
少年は、無意識に身を強張らせた。
ーータダでは、済まされない。
「…分かりました。」
声は、思った以上に落ち着いていた。
それが余計に、現実味を帯びさせる。
「すぐに、参ります。」
そう告げると、少年はゆっくりとベッドから足を下ろした。
まだ震える身体を叱咤しながら。
逃げるわけには、いかない。
選んでしまった以上、この先にあるものを、受け止めるしかないのだから。