テラーノベル
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「放課後、銀髪の先輩に捕まる」
放課後の校舎は、昼間の喧騒が嘘みたいに静かだった。
ローレンは、体育館裏のベンチに座り、スマホを弄りながらため息をつく。
「……今日も、部活長引いたな」
赤い髪が夕日に照らされて、少しだけ朱色を強める。
その視界の端に、見慣れた銀色が映り込んだ。
「おーい、ローレン」
気の抜けた声。
振り向くと、制服のネクタイを緩めた葛葉が立っていた。
「くっさん……またサボり?」
「サボりじゃねぇし。三年の特権だし?」
へらっと笑うその顔は、どこか子供っぽい。
けれど、身長差と、何も考えてなさそうでいて鋭い目つきが、ローレンの心を無駄にざわつかせる。
「それよりさ」
葛葉はローレンの隣にどさっと座り、距離を詰めてくる。
「今日、一回も俺のこと見てなかっただろ」
「……気のせいだよ、」
「いや、絶対見てない。俺そういうの分かるから」
拗ねたように頬を膨らませる三年生。
ローレンは苦笑する。
「くっさんは、いっつも目立ってるよ」
「それ“好き”って意味?」
一瞬、言葉に詰まる。
分析や理屈は得意なのに、こういうのはどうにも弱い。
「……先輩、からかってる?」
「半分。本音半分」
葛葉はそう言って、ローレンの前髪に触れた。
長めの前髪を指先で軽く持ち上げる。
「こうやって見るとさ」
低い声が、やけに近い。
「ローレン、可愛いよな」
「っ……!」
「はい赤くなったー」
楽しそうに笑う葛葉に、ローレンは視線を逸らす。
「先輩は、そういうの簡単に言い過ぎ!」
「努力嫌いなんで」
即答だった。
「でもさ」
少しだけ、声の調子が変わる。
「ローレンにだけは、嫌われたくねぇんだよ」
ローレンは、ゆっくりと葛葉を見る。
その表情は、いつもの軽さが消えていた。
「……俺は」
ローレンは一歩踏み出す。
「くっさんの、そういう正直なところ、嫌いじゃない、……」
一瞬、沈黙。
次の瞬間、葛葉はローレンの手首を掴いた。
「逃げんなよ」
額が軽く触れる距離。
葛葉の声は低く、真剣だった。
「後輩のくせに、俺のこと振り回すな」
そして、短く、軽く。
唇が触れるだけのキス。
離れた瞬間、葛葉は照れ隠しのように笑った。
「……ま、今日はこれで許してやる」
ローレンはしばらく固まった後、小さく息を吐く。
「くっさん」
「ん?」
「次は……俺から行くから」
葛葉は一瞬目を見開き、すぐにニヤッと笑った。
「言ったな?」
夕焼けの校舎に、二人の影が並んで伸びていた。
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