コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
────ドサッ
「……っ……!?」
床に転がり落ちた俺は、瞼を瞬かせるとぶつけた肩を摩りながらゆっくりと上半身を起こした。
「……夢……、か……?」
今しがた自分が寝ていたであろうベッドを眺めながら、ポツリと小さな声を漏らす。
「なんて夢見てんだよ……っ」
グシャリと雑に前髪を掴むと、ドクドクと早鐘を打ち続ける胸にそっと手を当ててみる。
それは普段と比べると尋常じゃないぐらいの速さで、余程の動揺があったのだと自分でも分かる。
(夢で良かった……)
そう思うと安堵から大きく溜息を吐く。
そのまま暫く床に座ったまま気分を落ち着かせると、平常心を取り戻した俺はふらりと立ち上がってリビングへと向かった。
────カチャッ
扉を開けるとそこには花音と響がいて、その普段と変わらない光景を見てホッと安堵の息を吐く。
そのままキッチンに入ってグラスにジュースを注いできた俺は、二人のすぐ近くまで行きソファに腰を下ろすと、注いできたばかりのジュースを口にしながら二人の様子を眺めた。
床に広げた幾つかのパンフレットを眺めながら、床に座って何やら楽しそうに話している花音と響。
どうやら、高校卒業祝いとホワイトデーを兼ねて、何処かに遊びに行く計画を立てているようだ。
「花音。せっかくだから遠出しない?」
「でも……そしたら泊まりになっちゃうし、お金だって高くなっちゃうよ?」
「大丈夫だよ? お金ならあるから」
「うん……。でもやっぱり……」
「どうしたの? 花音」
(…………。お前を警戒してるんだよ。泊まりになるデートなんて花音が行くわけないだろ? そんな事したらすぐお前に食われるだろ。花音だってそのぐらい気付いてるんだよ、バカ)
二人の会話を黙って見守る俺は、そんな事を思いながらジュースを口にする。
「だって……卒業祝いも兼ねてるのに、ひぃくんにそんなにお金を出して貰うのは悪いよ」
「そんな事気にしなくても大丈夫だよ? 俺は花音と一緒ならそれだけで幸せだから。USO行きたがってたでしょ? 一緒に行こうよ。……ね? 花音」
ヘラッと笑った響は、そう言うと小首を傾げて花音を見つめた。
(だから、行く訳ないだろ……バカ響)
必死に花音を口説き落とそうとしている響を見て、フッと鼻で笑うと再びジュースを口に含む。
「うん……じゃあ、行くっ! USO楽しみだねっ!」
「うんっ。楽しみだねー」
────!!!? ブーッ!!!
(っ、……嘘だろっ!? 何考えてるんだよ花音っ!! あの夢は……っ、まさか正夢になるのか……!?)
「……うわっ!? お兄ちゃん汚いっ! やだもぉー!」
「っ、翔汚いよーっ! ジュース飛ばさないでよー!」
足元でワーワーと騒ぎ始めた二人の姿を見つめながら、俺は口元のジュースを拭うと花音の肩をガシッと掴んだ。
「花音っ! お前はバカかっ!? 妊娠するぞっ!!?」
俺の言葉に一瞬驚いた顔を見せた花音は、その顔を真っ赤に染めあげると口を開いた。
「に……っ、にににっ、妊娠て何よっ!? ……お兄ちゃんの変態っ!!」
ポカポカと俺を殴りながら、そう言って怒り出した花音。
(変態ってなんだよ……っ。俺はただ、お前のことを心配して……)
「翔って、変態なんだね?」
俺を見てニッコリと微笑んだ響は、ティッシュを数枚取り出すと花音に飛び散ったジュースを拭き始める。
その姿はやけにご機嫌そうで、今にも鼻歌が聴こえてきそうな気がするのは……俺の気のせいなのだろうか?
未だ真っ赤に染まった顔のまま怒っている花音へと視線を移すと、先程見た悪夢を思い返して途端に真っ青になってゆく俺の顔。
(何でそんなにバカなんだよ……。花音、泊まりってどういう事か……お前、分かってるのか?)
「お兄ちゃんのバカッ! エッチ! 変態っ!」
「本当だね。翔はエッチで変態だねー」
真っ赤になって怒っている花音の頭を撫でると、呆然とする俺を見てニッコリと笑った響。
(響なんかに簡単に騙されるなよ……。お前、USOなんか行ったら絶対に食われるぞ。分かってるのか……? 正夢になったらどうするんだよ。あんなお前の泣き顔、俺は見たくないんだよ)
未だ響の腕の中でプンプンと怒り続けている花音を見て、なんでこんなにバカなんだと愕然とする。
それでも、花音の事が心配で放っておけなかった俺は、その後、何時間にも渡ってUSO旅行計画を潰す為に尽力を注ぐのだった。
─完─