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三章 喪失
22話「操」
「くそ!もう一軒まわらせろ!」
「やめとけ…ったく、酒癖だけは悪いんだから」
私は海魔碧。記憶を失っていて、元々は男だったらしい。
そんな私だが、酔いが覚めた店主さん、鬼魔姉をよそに、一人抜けないアルコールの中、二人に怒りを撒き散らしている。
だって悪いのはこいつらなんだもん!私は悪くないもん!
別に一件くらい回ったっていいじゃんか!
「もういい…こうなったらお前らも巻き込んでやる…『思考同調』!」
『思考同調』とは、その名の通り、周りの人に自分の考え方を強制する魔法。
と言っても、今考えた即興の魔法である。
「へ?…あっ」
「鬼魔?」
「あーー!酒ねえじゃん!!飲ませろおお!!!」
やったあ!
これで私の味方が増えた!
「よし次は…ふふふ…」
「や、やめて…」
「『思考同調』」
「やめ…」
その時、店主さんの額から光が漏れる。
「ああもう…碧だけには知られたくなかったのに…」
「え…これって…」
驚いたことに、鬼魔にかかっていた魔法や、今使おうとした魔法が、すっかりかき消されてしまったのだ。
「これが店主に刻まれている紋様…守護神様が直々に刻んだ生物用アーティファクト。碧を敵に回した時に対策を取られたくないから、碧には教えてなかったみたいだな」
「こ、これが守護神様の力…なんだろう…」
ああ…守護神様…
この度の無礼をどうかお許しください…
「あ、碧?急にどうしたんだ?」
「守護神様の加護…店主様…素晴らしい力をお持ちになられているに違いない…『能力分析』」
…え?
何の能力もお持ちになられていない…だと?
どういうことなんだ?
守護神様が力をお認めになられたからこそ、アーティファクトが刻まれたのではないのか…?
「残念。俺は神主でも魔法使いでも妖怪でもない、ただの人間だ。」
「!?」
「でもだからこそ、守護神様は俺にこのアーティファクトを刻んでくださったんだと思う。」
何を言っているのか、さっぱりわからない。
力を持っていなくても、守護神様の気まぐれで、アーティファクトが刻まれるのか?
「いいか碧。表面的な力だけが強さというわけじゃない。心身全てを含めて初めて、本当の強さが見出せるんだ。」
「はあ…」
「お前も強くなりたいなら、どんな時にも挫けない強い心を持て。分かったな。」
「はっ」
つい、そう返事してしまった。
今の店長さん…もとい店長様は、守護神様そのものが取り憑いているのではないかと思ってしまったからだ。
「このお言葉…永久に我が指針にさせていただきます」
「…碧…記憶がなくなって純粋になったけど…前の生意気さが消えると違和感があるな…。」
「…記憶…かぁ。確かに戻ってきたほうがいいんだろうけど…あんまりわかんないや。」
まあ、私としてはこのまま記憶が戻らなくても別にいいかなっては思ってる。
でもそれは、鬼魔姉や店長さんを悲しませる結果になるのではないか。
自分ではいいと思っていても、周りが悲しむのであれば仕方ない。
しっかり、記憶を元に戻さなきゃいけないんだ。それが、今の私の使命だから。
「いぇーい!!」
「で、何で酒?」
「酒呑めば全て忘れるっていうでしょ?だからその逆で、酒呑みまくればその時消えた記憶が戻るんじゃないかなーって」
「いや…ちょっと…」
よっしゃー!!酒だ酒だ!アル中だ!!
もっと呑んで呑んで呑みまくれ!そして全て思い出すんだ!
「ぎゃー!下界酒『鬼ごろし』がたったの750円!?安
すぎだろ!」
「うますぎぃへへっへへへへへ」
「あの…そういうことじゃ…」
現実逃避楽しーーー!!呑むぜー!
…こうして私たちは、本当の原因にも気付かず、ただ呑みまくるのだった。