テラーノベル
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翌日の放課後、俺は駅で私服に着替えて電車に乗り込んだ。向かうのは、加藤のSNSにあった写真の撮影場所――海辺ではない。
そこに写っていた背景から割り出したのは、市内の小さなカフェだった。スマホの地図を頼りに細い路地を抜けると、こぢんまりとした木造の外観が見えてくる。
夕暮れ時の店内には、数組の客。そしてカウンターの端に、写真で見た背の高い男の姿があった。左手の指には、あの細いリング。表情は無表情に近く、誰かを待っている様子だった。
(……やはり来たな)
俺は注文カウンターでアイスコーヒーを頼み、男の斜め後ろの席に腰を下ろす。姿勢を崩さず、反射する窓ガラス越しに様子を窺う。
数分後、加藤が入ってきた。自然に挨拶を交わし、男と向かい合って座る。ふたりの声は低く、断片しか拾えないが――「先輩」「時間」「次」という単語が耳に残った。
(次……なんの次だ?)
ふたりが店を出るのを見計らって、俺も立ち上がる。数メートルの距離を保ちながら、ふたりの尾行をはじめた。男の歩き方は規則的で、視線の配り方も一定。完全に素人ではない動きに見える。
商店街の外れまで進んだところで、ふたりは別れた。加藤は駅方面へ、男は裏道に入る。俺は迷わず、男のあとを追った。だが角を曲がった瞬間、そこには誰もいなかった。
足音も、気配も。まるで、最初から存在しなかったかのように。
(……撒かれた、いや……これは――)
背筋に冷たいものが走る。足元に、まだ煙の残るタバコの吸い殻が落ちていた。つい先ほどまで、誰かがここに立っていた証拠。
タバコを吸っていた人物の視線が、さっきまでの自分に向けられていたのではないか――そう思った瞬間、喉が一気に乾いた。”裏”の協力者は、いったい何人いるんだろうか。
唇を噛み、俺は踵を返す。心臓の鼓動は早いが、決意は揺るがない。
(次は、必ず掴む。……奏が危険な目に遭う前に、アイツを炙り出さなくては!)
冷たい風が吹き荒ぶ街灯の下で、赤いリングの残像がまだ瞼に焼き付いていた。
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