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どうしよう。こんなつもりじゃなかった。
たすけて。あのひとはあんなひとじゃないはず。
違う。違う。だれか、たすけて______
「主」
「太郎さん」
ある晴れた日の朝。愛おしいひとが私に話しかける。
「そろそろ朝餉のお時間ですよ」
「そうだった、ありがとう、太郎さん。」
愛おしいひと__太郎さんが優しく微笑んで私に手を差し伸べる。
こんなことされたら、嫌でも意識しちゃうじゃない。そういうの、他の女の人にもしてるのかな…なんて、私は1人で悶々とする。
「……」
「どうかしましたか?主」
「…いいや、なんでもないよ。さ、行こう」
変な考えは一旦置いておいて、私は太郎さんの手を取る。
にっこり笑った太郎さんは、私の手を握りながら大広間へと連れて行ってくれた。
「…!!主、お待ちしておりました。貴女様のご朝食はあちらにご用意させていただきました。」
「ありがとう、長谷部」
「はっ!ありがたき幸せ」
大広間では入口で長谷部が待っていた。私を見かけるなり駆け寄ってきて朝食の席へ案内してくれた。
…心なしか、耳としっぽが見えた気がする。
そんな長谷部が可愛くて思わず頭を撫でてしまった。
「…!?あ、あるじ、」
「かわいいねぇ、長谷部は。いつもありがとうね」
「!!いえ、主の為でしたら、この長谷部、どこへでもご案内いたします!」
ふふ、と思わず笑みが零れる。ほわほわした雰囲気になって、幸せだなぁと改めて感じる。
…しかし、それを良くは思わない人物もいた。
コンコン
「…主、入ってもよろしいですか。」
「はい?どうかされましたか」
「……少し、貴女とお話がしたくて」
入って来たのは太郎さんだった。
珍しいな。こんな時間に部屋を訪ねてくるなんて。
今は夜の10時。そろそろ私も寝支度を始めたところだった。
戦況報告?いや、それは昼間に一期さんが来てくれたから違うな。
「___主」
「は、はいっ!!」
ぼんやりしていたら話しかけられたので、思わずびっくりしてしまった。
「す、すみません…あの、話したいことって…?」
「……」
なぜ真顔で黙るのだ。私は疑問に思いつつ返答を待った。
「__貴女には」
「?」
「貴女には、警戒心というものが足りていません」
突然彼が私に寄って来た。
「けいかいしん…??」
「ええ、いつも貴女は他の刀や男性にその可愛らしい顔を緩ませて近寄っていく…」
「か、かわっ…!?」
いきなりのことで頭が追いつかない。好きなひとに可愛いと言われたらそれはそれは嬉しいだろう。私だって例外じゃない。
…でも、何か雰囲気が違う。
太郎さんはこちらにじりじりと迫りながら冷たい視線で見下ろす。
「嗚呼、貴女はいつも他の男について行くから気が気じゃないんですよ。その可愛らしい手で長谷部の頭など撫でた時は自分が自分でなくなるかと思いました」
冷たい、冷たい目が少しずつ近寄ってくる。
「この本丸には貴女を自分のものにしたい輩など吐くほどいます。それなのにそんな下心にも気づかない。皆、貴女を暴いてトロトロのぐちゃぐちゃにしてやりたいと思っているのですよ」
怖くなって身体が固まる。
どうしたの、一体。その目は何なの。
「そんなのは許せない。いくら仲間とて私の主に手を出すなど…言語道断。」
ちり、ちりちり
「だから…」
ぢり、ぢりりぢり
「貴女を閉じ込めようと、私だけのものにしようと思ってこちらに参りました。」
ぼんっ!!!!
周りから炎が湧き上がって、天井まで覆い尽くす。
こわい。こわいよ。
私は恐怖で足がすくんだが、何とか立ち上がり、頭が真っ白の状態で外へ逃げ出した。
「___嗚呼、逃げられるわけもないのに。」
主人を閉じ込めようとした刀は小さく呟いた。
つづく。、