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戦争期日が前日と迫った頃。どの部隊も訓練に励んでいた。
ひとつの部隊は敵を取り逃がさないように素早い攻撃を行う為に、ひとつの部隊はやってきた相手を薙(な)ぎ倒す為に、ひとつの部隊は遠くからの敵を外す事なく脳天を貫く為に。
一人一人が訓練を怠らずにやっていく。
「訓練って言うよりも、戦争前日だから動きの確認って感じだけどね」
「まぁ、その動きの確認も訓練のひとつでしょ」
確認も真面目にやるのが光石国の良いところだろう。日々の訓練や戦争前日の確認だって真剣に取り組む事で、戦争の死亡率はダントツで低いのだから。
いつもふざけている幹部達だって、隊長としてこういう時は真剣に取り組みをするのである。
「前日だから確認をさせるのもいいけど、早く休ませないとダメだぞ?」
と、書記長である柊(ヒイラギ)が、総統の輝(ヒカリ)に言った。
「そうだね。早めに休ませるよう、各部隊の隊長達に言っておこう。隊長から兵士に伝わると思うからね」
念の為確認だが、「隊長」とは幹部達の事である(橘・凪・楓)。
コンコンコン。会議室の扉がノックされる。
「入って」
「やっほー!アウスト国について調べてたら、戦争前日になっちゃった☆」
「「なっちゃった☆」じゃねーだろ!」
やたらと元気な彼は、光石国の外交官の隻(セキ)。
外交官の仕事は言わばスパイのようなもので、各国を調査するのだ。そして、セキは先程まで明日戦争を行うアウスト国に侵入していた。
「やっぱり噂どおりアウスト国は強いところだよ。武器とか訓練してるところも見せてもらったんだけど、武器はホントに沢山あったし、訓練もここに劣らないくらい厳しかったよ」
「そうか…ここに劣らないくらい、ね。兵士達なら、もしかしたら負けるかもしれないね…」
単なる憶測で、可能性の話だ。何も、絶対こっちの兵士達がアウスト国の兵士達に負けるって事はないだろう。
でも、もしかするといつもより死亡者が増えるかもしれないが。
ヒカリは、幹部達が生き残っているならそれでいいと思っている。兵士達なんて、募集すれば沢山集まるのだから。
そういった考えをするヒカリは、やはり狂気者である。兵士達を捨て駒のように扱っている気がするし。
「うん、セキ。少し遠いアウスト国に調査へ行ってくれてありがとう。明日までゆっくり休んでくれ」
「わかった!明日は前とおんなじようにカナタのお手伝いすればいいんでしょ?」
「うん、そうだよ。よろしくね」
「はーい!!じゃーね!」
パタン。
セキは相変わらず元気である。幹部の中で一番テンションが高い。機嫌が悪いとうるさいと感じてくる時もあるくらい元気なのだ。
セキとの話は短かったが、それでも真面目な話なので疲れるものだ。ヒカリはふぅ、と一息しながら先程より深く腰かける。
戦争が近づいていると忙しくなるものだ。疲れが溜まる一方で、解消する暇が驚くほどない。
「ヒカリ、疲れた顔してる。ヒカリも早く休めよ?」
ヒイラギがヒカリの心配をして早く休むように促した。
「はは、総統が休むと? 身体的にも精神的にも疲れているのは彼らだ。僕が先に休むなんて、できないよ」
それでも、心配を真に受け取らないのが総統、ヒカリである。
よっぽど疲れているのは部隊の人達だ、と言っていつも一番最後に休んでいるヒカリ。
そりゃあ、難しい話を沢山して溜め込んだストレスや疲れはなかなか取れない。
「お前いつも朝五時に起きてるだろ!そりゃ疲れ取れないに決まってる! 明日は戦争だぞ?早く休もう?」
ヒイラギはヒカリが一番大事だから、凄く心配している。その心配をわかって欲しいからと熱量で伝えた。
「僕は戦争の時、ただただ総統室で座ってるだけなんだけど…」
「うん。」
「えぇ…?」
「自分は戦争の時は体は動かさず、座っているだけ」だから別に。そう伝えてもヒイラギは「それが何?」と何やら当然のような素振りを見せた。何が当然なのやら。
「…休んでください総統様。」
「あー、はは。わかったよ」
何を言っても休もうとしないヒカリに、最大のおねがい「敬語」を発動した。
そして観念したのか、ヒカリは言う事を聞いた。ヒカリは、ヒイラギにそれぞれに早く休むように言ってと頼み、自室へと戻った。
その言葉には、部隊の隊長だけではなく、「幹部」に言っていた。でも、ヒイラギは「それぞれ」の本当の意味を知らない。
「ホント、ぼくらの総統様は我儘だな――」
そう呟いて、歩き出す。
我ら光石国はNo.1だ。たかがアウスト国になんて負けられない。その為には、幹部だけでも強くならなくては―――
ヒイラギが、各部隊に早く休むように伝えた事で、訓練や確認は何時もより早くに切りあげた。
そして次の日、本番が始まる。