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凪川 彩絵
#独占欲
コミュニティルームを出た足で、晴永に伴われた瑠璃香は、近くの小会議室へと連れて行かれた。
晴永は無言のまま会議室入口の札を【空き】から 【使用中】へ切り替えると扉を開ける。
「……とりあえず中へ」
促されるまま中へ入ると、背後で静かに扉が閉まった。
「瑠璃香」
部屋が密室になったと同時、プライベートの呼び方で低く名前を呼ばれ、瑠璃香はぴくりと肩を跳ねさせる。
恐る恐る顔を上げれば、真剣な眼差しの晴永と視線が合った。
「……俺のせいで、嫌な思いをさせたな。すまなかった」
言い訳も前置きもない、真っすぐな謝罪とともに丁寧に頭を下げられた瑠璃香は、戸惑ってしまう。
驚きのあまりだろうか。コミュニティルームで日下仁人から植え付けられた胸の奥のモヤモヤが、わずかに緩んだ。
しばらく茫然と晴永の後頭部を見つめてから、ハッとする。
「……あ、あのっ、頭を上げてください。わ、私の方こそ……お弁当の中身、配慮が足りてなくて、すみません」
それと同時、瑠璃香は反射的にそう口にしていた。
実際、常備菜は冷凍庫の中にいくつも作り置きしてある。
最初から自分と晴永の弁当のおかずを重なりすぎないようずらしておけば、こんなことにはならなかった――。日下から責められていた時から思っていたが、晴永からの謝罪を受けてその思いは一層強くなる。
「……私が、もっとちゃんとしていれば……」
しゅん……として言いつのる瑠璃香を制するように、晴永が首を振った。
「違う」
低いが、迷いのない声。
「お前は悪くない。――おかずの内容を変えるとか、朝の忙しさじゃ無理だろ」
「……でも」
「いや、俺がもっと気を遣うべきだったんだ。本当に悪かった」
有無を言わせぬ調子の、はっきりとした謝罪だった。
瑠璃香は言葉を失う。
晴永から『何でもっと配慮してくれなかったんだ。俺まで巻き込まれたじゃねぇか」と責められる覚悟すらしていた。
けれど、そうはならなかった。
そればかりか、誠心誠意謝られているのは瑠璃香のほうだった。
「……晴永さんは、悪くないです」
気が付けば社内だというのに、家で言うように彼のことを〝晴永さん〟と呼んでしまっていた。
自分でも分かる。情けないくらいに、声が震えている。
「やっぱりどう考えても……私が、もっと配慮をしていればよかっただけで……」
その言葉を、苦笑交じりに晴永が遮る。
「本当、お前は……。変なところで強情だな」
吐息までつかれて、呆れられているのかと思ってオロオロと晴永の顔を見やれば、彼は存外優しい顔をしていた。
「黙って俺のせいにしとけばいいんだ」
低く、落ちる声。その声は驚くくらい甘かった。
「そもそも……俺たちの関係自体、まだ曖昧だろ?」
一瞬だけ眉根を寄せた晴永の表情が、どこか寂し気に見えたのは、瑠璃香の心に後ろめたさがあるせいだろうか。
「そんな状態で弁当を頼んだのは、日下に対する嫉妬心が呼んだ、俺の浅はかさが原因だ」
「え?」
コメント
1件
やばい。課長かっこいい!!