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「……ん……」
まぶたが重い。
頭もガンガンするし、喉がカラカラに乾いていた。
ゆっくりと目を開けると、見慣れない天井が視界に入る。
(……あ、ホテルか)
しばらくぼんやりしたまま、昨夜の記憶をたどる。
お酒を飲んだことは覚えてる。
ただ、そこから先が——
「……」
ガバッと起き上がる。
(やばい……俺、なんか言った……よな……?)
一気に血の気が引いた。
断片的に思い出すのは、缶を開ける音、涙の感覚、そして——
「……うわぁ」
思わず頭を抱える。
(最悪…… 絶対、変なこと言ったし……)
昨夜の酔いが完全に抜けきっていないのか、頭がぼんやりしているのに、後悔だけは鮮明に押し寄せてくる。
(俺、泣いてたよな……? 岩本くんに意味不明なこと言って……)
(しかも、最悪なのが……)
「……岩本くん、いねぇ……」
部屋を見渡しても、岩本くんの姿はどこにもなかった。
(絶対、気まずくて先に行ったんだ……)
そんなことないって思いたかったけど、どこかで確信していた。
(うわぁ……どうしよ……)
最悪の気分のまま、重たい身体を引きずるようにベッドから降りる。
荷物をまとめ、着替えを済ませながらも、気持ちはずっと沈んだままだった。
(岩本くん、なんて思ったかな……)
(呆れたよな、絶対……)
(……顔、合わせづれぇ……)
溜め息をつきながら、撮影現場へと向かう。
車の窓の外を眺めながら、昨夜の記憶を振り払おうとするけど、頭から離れない。
(……マジで、なんであんな飲んだんだよ……俺……)
自分を責めながら、気まずさを抱えたまま撮影現場へと足を踏み入れた。
撮影現場に到着すると、すでにスタッフが慌ただしく動いていた。
(……とりあえず、岩本くん探さないと……)
気まずさを抱えたまま、楽屋へ向かおうとすが、その前に聞き覚えのある声が耳に入る。
「……そっか、岩本くんもう撮影始まってるんだ」
ポツリと呟いた瞬間、心の奥底からふわっと安堵が広がった。
(……よかった。まだ顔合わせなくていい……)
昨夜の記憶があいまいなまま、どう接したらいいのかもわからなかったから、とりあえず時間が稼げることにホッとする。
スタッフの指示に従いながら、そっと撮影セットを覗くと——
「……」
岩本くんがカメラの前で、真剣な表情をしていた。
ジャケットの前を片手で軽く持ち上げ、視線を少し伏せながらポーズを決める。
ライティングが当たるたびに、その表情が変化するのがわかる。
(……やっぱ、すげぇな)
動き一つひとつが計算されているのに、自然体で、余裕すら感じる。
カメラマンの指示に応じて角度を変えたり、視線を送ったりする姿は、どこから見ても“プロ”だった。
「目黒くん、準備お願いしまーす!」
スタッフに声をかけられて、ハッとする。
「……あ、はい!」
慌てて楽屋へ向かいながらも、岩本くんの姿が頭から離れなかった。
(昨日岩本くんに変なこと言って……それでも、何もなかったみたいに撮影してんのに……)
(……俺だけ、引きずってんのかな)
そんなことを思いながら、重い気持ちのまま、着替えを始めた。