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丁寧だな、とても丁寧な描写ですね。
撮影は思ったよりスムーズに進んだ。
自分の番が回ってきたとき、少し気まずさは残っていたものの、カメラの前ではそんな素振りを見せるわけにはいかなくて。
無心でシャッター音に身を任せた。
岩本くんとは、撮影の合間に軽く言葉を交わしたくらい。
「目黒、ちゃんと寝れた?」
「……あ、うん。まぁ」
「そっか」
本当にそれだけ。
(……気にしてない、のか)
なんとなくホッとしたような、拍子抜けしたような気持ちになった。
岩本くんは、俺が昨日あんなふうに酔っ払ったことなんて、たいして気にしてないのかもしれない。
それとも、あえて触れないでいてくれてるのか。
どっちにしろ、何事もなかったかのように接してくれるのはありがたかった。
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帰りの新幹線。
各自自由に席に着き、思い思いの時間を過ごす。
窓際の席に座り、ぼんやりと流れる景色を眺めていた。
「……ふぅ」
気まずさが完全に消えたわけじゃないけど、撮影も終わったし、ようやく肩の力を抜くことができる。
隣の席では、岩本くんがイヤホンをつけて、スマホをいじっていた。
「……」
ちらっと横目で見ても、特に何か言ってくるわけでもなく、いつも通りの様子。
(ほんと、気にしてないんだな……)
俺が勝手に気まずくなってただけかも。
少しホッとしながら、スマホを取り出して適当にSNSを眺める。
けど、ふと気づくと——視界の端に、岩本くんの腕が見えていた。
ジャケットを脱いで、シンプルなロンT姿になってるから、普段よりリラックスした雰囲気。
(……昨日のホテルでも、こんな感じだったっけ)
シャワー上がりの濡れた髪、ゆるっとした服装——
無意識に思い出しそうになって、慌てて目をそらした。
(ダメだ、また変なこと考えそう……)
スマホの画面に視線を戻し、何か別のことを考えようとする。
けど、どうしても隣の存在が気になってしまって——
(……なんでこんなに意識しちゃうんだろ)
車内に響くアナウンスを聞きながら、一人、静かにため息をついた。