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その後、興奮冷めやらぬ様子のヘロンから、ドラゴが聞き出した内容は大体こんな感じであった。
念願の元『ペジオの池』、現『メダカの王国』である『美しヶ池』に迎え入れられたヘロンは得意の絶頂から絶望の奈落へと突き落とされてしまったらしい。
不意に現れたランプが発した例の台詞、『ヘロン、お主たちが欲する特別な草とヒルは今の『美しヶ池』では手に入りはせんぞ』、この発言によってである。
草とヒルが手に入らない? これにはヘロン自身、少なくない、いいや、大き過ぎるショックを感じざる得なかったようだ。
しかし、ヘロン自身の中で瞬時にこれから向かうべき方向性は変更されたと言う。
つまり、
――――くっ! あの草が無い、のか! しかも、草、食べすぎによる魔力障害を緩和してくれるヒル達までいないとは…… 最早、希望は絶たれた、か…… ん? ま、待てよ…… ウランを移植した途端にティターンの回復力を発揮して、あまつさえ、悪魔の特性である言語能力、コミュニケーション能力の充実を見せた王妃様、か………… 若(も)しかして魚類? いいや、このナッキ様やサニー様の種族、ギンブナさん達ならばぁ、ティターンにジョブチェンジ可能、とか? あ、あるのかな? うーん…… 良しっ! 仲間達を総動員して何とか一個だけ見つけ出したこの輝石、ウランをナッキ様に差し込んで実験してみようっ! 良しっ、やってやるぜぇっ!
とか何とか思った結果、巨大な緑石をナッキに打ち込んでしまったそうである。
結果は怒り狂ったナッキの尾鰭でぶっ飛ばされて、暫(しば)しの間意識を失ってしまった訳だが……
目覚めたヘロンは、ナッキから齎(もたら)された成長の報せ、簡単に言えば全ての言葉が判別可能になった件を聞いた事で、歓喜の叫びを上げた、そう言う事であったらしい。
ヘロンは感涙に顔を濡らしながら言葉を続ける。
「エグエグッ! ナッキ様がサニー様と同じく、悪魔へと昇華された事は喜悦の極みで、ございます! エグッ、この上は、我等鳥族が命懸けでウランを探し続けて、ギンブナの方々に移植し続けますので、エグッ、エグッゥ! この世界が失った悪魔で、エグッ、この地を満たしましょうねぇっ!」
姿や表情を見る限りは本気の本気、マジで言っているっぽい感じがするが……
私、観察者と『美しヶ池』中心メンバーの認識は同じだった様だ、皆一様に黙りこくってこの後の展開を注視していた。
沈黙を破ったのはナッキの声である。
「でもさっ! ヘロンッ! 君ってば言っていたじゃないかぁっっ! 僕等サカナの事を馬鹿だってぇっ! それはどうなのぉっ! 言ったよね? 馬鹿ってぇっ!」
ヘロンは泣き顔のままでキョトンとした表情で、一切悪びれる事無く答える。
「あ、はい、確かに言いましたね、だって馬鹿じゃないですか、お魚さん達って! ええっ! 馬鹿を馬鹿って言ったら駄目だったんですかぁっ? でしたら済みませんでしたぁ…… てっきり…… あれですかね? 今後は馬鹿だなって思っても言わずに居た方が良いですかね? 凄ーいとか、賢いぃぃーとか嘘を吐いた方が良いですかぁ、ナッキ様ぁ?」
ナッキは明後日の方を向いたままで答える、苦い表情だ。
「いや、正直に言ってくれた方が良いよ…… 頼むね、ヘロン……」
「はいいぃぃっ! お任せ下さいませっ!」
「くぅっ!」