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『MOONLIGHT SIREN』
Chapter 1:声を持たない歌姫
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「あのステージに戻って、私は何を歌えばいいの?」
薄暗いスタジオの片隅。
ミンジュはピアノの鍵盤に指を置いたまま、動けずにいた。
彼女の周りには誰もいない。
BTSの誰も、マネージャーも、スタッフも。
自ら望んだ“孤独”だった。
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【3日前/HYBE会議室】
「ミンジュ、本当にやるのか?」
ナムジュンが真剣な声で尋ねた。
「やるよ。でも、誰のためでもない。」
ミンジュはソファに座り、脚を組みながら答える。
「ファンは…お前を待ってるんだぞ。」
ジンの言葉には、優しさと怒りが混じっていた。
「わかってる。でも、私…今も“自分の声”が怖いの。」
静まり返る空気の中、唯一、テヒョンだけが黙っていた。
妹の心の奥にある“秘密”を、誰よりも知っていたから。
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【現在/控室】
「この部屋、変わってないね。」
ミンジュが目を閉じると、8年前の光景がよみがえる。
初ステージ、拍手の嵐、兄の背中、ジョングクの緊張した笑顔。
あの頃は、何も怖くなかった。
「…やっぱり怖いですか?」
背後から声がした。
振り返ると、ジョングクが立っていた。
黒のキャップに白のTシャツ、いつものカジュアルな姿。
だけど目は真剣だった。
「ねぇ、ジョングク。私、まだ“歌える”と思う?」
「バカにしてるんですか?」
不意に彼はミンジュの手を取った。
そしてその手を自分の胸元に当てる。
「ここ、感じます? 僕の鼓動。
ヌナの声が、僕の心を動かしているんですよ。」
「……。」
ミンジュの目に、涙がにじんだ。
「ヌナの歌がなかったら、僕は今ここにいないかもしれない。
だから、ミンジュヌナ。
怖くてもいい。震えててもいい。
それでも、歌ってください。」
その言葉が、彼女の凍った心を溶かした。
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【ステージ当日/非公開ライブ会場】
観客数:10名
スタッフ:全員非公開契約
記録:すべてアナログ、映像なし
幕が上がると、白いドレスを纏ったミンジュが立っていた。
無音の空間。
息を呑む観客。
そして──音が、鳴りはじめた。
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「私の声が あなたを癒せるなら
たとえもう二度と歌えなくても、構わない──」
🎵
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ステージ袖で、BTSメンバーが静かに涙を流す。
「…帰ってきたな。」
テヒョンの声は震えていた。
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🌙To be continued…