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その夜、晶子が塾の建物を出ていつもの待ち合わせ場所にいると、スマホの呼び出し音が鳴った。カンナからの通話だった。
「悪い、晶子。あと15分ぐらいかかりそうなんだ」
晶子が通話に出ると、焦った口調のカンナが悲鳴のような大声で言う。
「カンナ、どうかした?」
「いや、思ったより手間取っちまっててさ。あんまり待たせると悪いから、なんなら今日は先に帰っていいぞ」
「15分ぐらいなら大丈夫だよ。暇つぶししながら待ってるから」
「そうか? じゃあ、なるべく早く行く」
晶子は街灯の下の小さなベンチに腰を下ろし、カバンから歴史小説の文庫本を取り出して読み始めた。
日本史が好きな晶子にとっては、学校の歴史の授業とは全く違う視点で書かれた歴史小説というジャンルは時間を忘れて没頭できる唯一の趣味らしき物と言えた。
きっかり15分経った頃、カンナが全力疾走で待ち合わせ場所にやって来た。カンナは晶子の前で両手を膝の上に突き、しばらくゼイゼイと荒い息をした。呼吸が整ったところで晶子に言う。
「いや、悪い。待たせちまったな、晶子」
「そんなに急がなくてよかったのに。それで何か居残りとか?」
「いや、実習の授業でさ。後片付けに時間がかかるんだよな」
「実習?」
「うちは商業科だろ。3年次になると簿記とか会計とか、実務の授業が入ってくんだよ。今はまだ基礎だから、あたいの頭でもついていけるけど、来年が思いやられるぜ」
「そうか、カンナの高校は4年制だったね」
「ん? 何読んでたんだ? それ、参考書じゃねえみたいだな。晶子にしちゃ珍しいじゃん」
「ああ、さすがに朝から晩まで受験勉強ばかりだから、たまには息抜きもね」
「へえ、ちょっと見せてくれよ」
晶子は文庫本をカンナに手渡す。カンナは適当にページを開いてしばし読む、と言うより眺めているうちに、口が半開きになった。無言で本を閉じ、晶子に手渡して返す。
「マンガとかじゃなくて、文字ばっかりの本なんだな」
半ば呆れたような口調でカンナがそう言うが、晶子はカンナの困惑に全く気づいていなかった。
「暇つぶしにはこれぐらいがちょうどいい内容でしょ?」
「そ、それが、暇つぶし? やっぱ晶子はあたいと違って頭いいんだな。ちきしょう、世の中は不公平だぜ。晶子の脳みそ、少しでいいから分けてくれ」
「あはは、何言ってんの、大げさだな。さ、早く駅行こ」
もな
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コメント
1件
晶子とカンナの日常の空気感がすごく好きです🤍 晶子が歴史小説に没頭してる姿、カンナが「文字ばっかりの本」って驚くところ、2人の距離感がリアルでほっこりしました。 こういう何気ない時間が、この物語の大事な部分だなって思います🌙 カンナの「脳みそ分けてくれ」には笑っちゃいました。