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(あみかママ)「竜生ちゃんは無戸籍児だった。」
(あみか)「え?」
(あみかママ)「戸籍が無い子供だったのよ」
(あみかママ)「それで生まれてから5年。」
(あみかママ)「実の両親から虐待を受けた」
(あみかママ)「いくつものの傷をつけた。」
(あみかママ)「一生に消えない傷を……」
(あみかママ)「竜生ちゃんの背中にある竜の絵のタトゥーはね、傷を隠す為だった。」
(あみかママ)「大勢の傷跡がある背中をタトゥーに入れて隠し続けた。」
(あみかママ)「竜生ちゃんは警察が見つかるまで5年間、虐待を受け続けた。」
(あみかママ)「実の両親は逮捕し、竜生ちゃんは里親に引き取られた。」
(あみかママ)「竜生ちゃんにとっては幸せに暮らしたそうだよ。」
(あみかママ)「それで5年後、あなたが生まれた。竜生ちゃんはあなたを抱いて泣きながらこう言ってたよ。」
生まれてきてくれてありがとう。
これからはあたしが守るからね。
(あみかママ)「その頃は本当に仲良しだった。竜生ちゃんはあなたと一緒に遊んだり」
(あみかママ)「言葉も教えたりしたのよ。」
(あみかママ)「その頃の竜生ちゃんはあなたの名前をあみかと呼んでいたのよ」
(あみかママ)「本当に、実の妹のように可愛がってた。」
(あみかママ)「あの事が起きるまでにね……」
(あみかママ)「ある日、竜生ちゃんはあみかのお世話を任せてたのよ。私は子育ての疲れを取ろうと眠ったの。そしたらね。」
(あみかママ)「あみかの泣き声が聞こえてきて、声がする方に走っていったらそこには」
(あみかママ)「竜生ちゃんの両手は包丁を持ってまだ赤ちゃんのあなたに向けてた。」
(あみかママ)「私はあみかを守ろうと竜生ちゃんから包丁を離した。」
(あみかママ)「竜生ちゃんはガタガタと震えていて、ごめんなさい、ごめんなさいとそう言い、急に家を出て走っていった。」
(あみかママ)「それが最後だった。」
(あみか)「私に酷いことをしたって……」
(あみか)「私を殺そうとしたってこと?」
(あみかママ)「竜生ちゃんはあみかを殺したくなかったみたい。過去からのトラウマから来たみたい。」
(あみかママ)「……はぁ」
(あみかママ)「竜生ちゃんがあなたの名を呼ばない理由はあなたと同じ名前だったから」
(あみか)「私と……?」
(あみかママ)「竜生ちゃんの前の名前はあみか。実の両親からつけられた名前だったから竜生ちゃんはそれが嫌で今の名前を変えた。」
(あみかママ)「あの日、竜生ちゃんが家を出て走っていった後に、里親である叔父さんから聞いた。叔父さんも前の名前があみかだと初めて知った。」
(あみかママ)「虐待から助かった時、刑事さんが名前を聞かれた時、竜生ちゃんは考えてた。あみかという名を捨てて、新しい名前で生きようと思って竜生と言った。後の竜生ちゃんは由来についてはこう言ってた。」
竜のように強くたくましく生きたい。
(あみかママ)「昔は呼んでいたけど、あの事があったから呼ばなくなった。」
(あみかママ)「それにあなたに殺そうとした罪の償いとしてあなたの名前を呼ばないと竜生ちゃんは決めているの。」
(あみか)「……」
(あみか)「それじゃ、竜生は今も……」
(あみかママ)「前の名前は捨てられずにいるみたいね。あなたに出会ったからね。」
(あみか)「……それって、私のせい?」
(あみかママ)「違うよ、竜生ちゃんは」
(あみかママ)「あなたに再び会えたから、あみかという名を捨てないでいようと思えた」
(あみかママ)「前の名前も今の名前も大切にしようと改めて考え直した。」
(あみか)「……!」
(あみかママ)「16年前、竜生ちゃんはあなたの名を呼んでいた。その度に実の両親を思い出してくるようになり、幼いあなたを殺せと実の両親が幻聴でそう囁いてくるようにあの行動にしてしまった。」
(あみか)「……」
(あみかママ)「私が知ってることはこれが全てよ。」
(あみかママ)「……あみか」
(あみか)「……竜生は」
(あみか)「今も苦しんでいるかもしれない」
(あみか)「私を殺そうとした罪を償わないといけないんだと思い続けて、責め続けて」
(あみかママ)「……そうだよね。」
(あみかママ)「竜生ちゃんは罪を背負わないといけないとそう思い込んでいる。」
(あみかママ)「でも、そんなことはしなくていい。」
(あみかママ)「竜生ちゃんが謝ってくれた」
(あみかママ)「もう……いいのよ……」
そう言った瞬間にママの涙がこぼれた。
(あみか)「マ、ママ?」
(あみかママ)「竜生ちゃんの過去はとても辛く苦しいもの。その時の気持ちを考えると胸が痛くなる。」
(あみかママ)「虐待から開放されたって言うのに、今度は罪を背負わないといけない。」
(あみかママ)「そんなの悲しすぎる」
(あみか)「……そうだよね……私もそう思う」
(あみか)「ありがとう、話してくれて」
(あみかママ)「……ううん、こちらこそ」
(あみかママ)「聞く勇気を出してくれて」
(あみか)「……うん」