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Irxs様二次制作小説
7⁄16(ないむさんの日)水桃
「あのっ…!」
今日も朝一番に学校へきて、席につき、窓の外を眺める。
どこからか聴こえる吹奏楽部の演奏を聞いて、一日が始まる。
そんな中、いつもなら誰もいない教室に、聞き慣れない声が俺の耳を通った。
「あの…えっと…」
彼は確か…稲荷さん、?だったかな。
2ヶ月前に転校してきたようで、いつもひとりでいる。
急いで来たのか、髪の寝癖は酷く、制服もよれている。
桃「……?」
俺は彼の続きの言葉を待っているが、もじもじしているだけでなにも言わない。
桃「…えっと…なにかあったの、?」
水「えっ…?…」
桃「こんなに朝早くから珍しいなーと思ってさ、稲荷さんっていつも遅刻ギリギリで来るし、笑」
水「っえ…ぁ、朝起きれなくて…」
こちらから少し話題を振ると最低限は答えてくれるらしい。
桃「…、じゃあ今日はなんで、?」
思ったことをそのまま質問した。
水「……僕と一週間…一週間だけ、親友になって欲しくて…!」
桃「………」
はて。急に勢いよく言葉を放つ彼とその言葉の意味に、少しぽかんとしてしまう。
桃「……親友、?」
水「そう、!親友っていうか…友達に…」
まただんだんと声が小さくなっている。
桃「…俺でいいの?その…親友になるの 」
そう言葉を返してみると、彼の俯いていた顔がバッと上がり、俺の手を取った。
桃「…おぉ、?」
水「乾さんがいいの!!本当にありがとう! 」
これがはじめて見た、彼の笑顔だった。
あとこの人絶対一歩踏み込めば容赦なく振り回してくる陽キャやろうだ。とも俺は悟った。
とはいいつつ、親友というものになって何をするのだろう。
そんなことを考えながら、ぼんやりと彼の席を眺める。
いつもと変わらず、すやすやと眠っていた。
最初の1ヶ月はそれこそ先生も居眠りを注意していたが、もうここまでくると先生も諦めたのだろう。
昼休みのチャイムがなる。
その途端、水色頭がバッと起き上がるのが視界に入った、と思ったら、今度は俺の方へと歩み寄った。
水「一緒にご飯食べよ!!」
特に断る理由もなく、俺は彼と昼食をとることにした。
水「ねぇ乾さん!あだ名で呼び合わない?♪ 」
ご飯を食べていると、稲荷さんは目をキラキラと輝かせながらそう提案してきた。
桃「あだ名…?」
水「そう!親友っぽいでしょ?♪」
親友っぽい…のか?まあ稲荷さんなんだか楽しそうだからいいか。
水「乾ないこ…ないこ…」
うーーん、と悩んでいる彼を横目に、俺も少し考えてみる。
稲荷ほとけ。転校初日の自己紹介で、すごく珍しい名前だなと印象に残っている。
俺も言えないのだろうけど。
てかあだ名ってどうすればいいんだ。たまご〇ちみたいな感じで〇〇っちとつければいいのか?
桃「ほとけっち…」
水「え?ほとけっち?」
桃「ぁ、いやあだ名って何がいいのか分かんなくて…思ったことそのまま言っただk」
水「嬉しい!!」
え、とつい言葉を漏らしてしまったが、さらに彼は目を輝かせて俺を見つめた。
水「じゃあ僕はね〜…」
水「ないちゃん!」
まさかのちゃん付けだと?とは思ったがあえて表に出さないようにする。
別に嫌な気分ではないし。
水「よろしくねないちゃん!」
そして、彼の笑顔を見たのは、これで2回目だった。
言葉を交わすようになってまだ数日――それなのに、俺とほとけっちは、昔からの親友のように自然に笑い合っていた。
水「なぁいちゃん♪」
水「クレープ食べいこ♪」
桃「…えぇ〜昨日も食ったじゃん流石に太る」
水「そんなクレープ1個で変わらんわ!!!」
桃「変な関西弁使うなー」
水「じゃあカラオケ!カラオケいこ!」
桃「んー…、いいよ」
そんなこんなでここ数日、登下校、移動教室、放課後も一緒に過ごしていた。
でもなぜ俺と親友になりたかったのか、今思えばとても不思議に思えてきて、カラオケ後、少し尋ねてみた。
桃「ねぇ、なんで俺と親友になったの?」
水「え?朝一番に教室にいたから」
桃「ぇ…えそれだけで?」
水「うん、そうだよ♪」
あまりにも薄すぎる理由で思わず聞き返してしまった。
桃「えぇ〜…..なんか、、えー…」
桃「あじゃあさ、一週間だけってなんでなん?」
こんなにも薄すぎる理由では不安になってきたので、一番疑問に思っていたことも聞いてみた。
水「…僕さ、また引っ越しちゃうんだよね」
桃「…へ?」
水「ちょうどその時が引っ越ししちゃう一週間前だったんだ」
何か訳ありな雰囲気が出てきたところで、少し話をしようと、公園のベンチに腰掛けた。
桃「ぇな…なんで、?」
水「えー…うーーん」
桃「ぁ、話したくなかったら別に…」
水「ああそんなんじゃないよ!?だって僕らもう本当の親友だしね♪」
ほとけっちのその笑顔は、はじめてみた。
きっと、彼は俺の思っているよりも複雑な感情を抱いているだろう。
水「聞いてよー…なんか最近お母さんとお父さん、離婚しちゃって。」
水「だから僕、今はおばあちゃん家にいるんだけど、おばあちゃんも最近亡くなっちゃってさ?」
重たくなりすぎないよう、少し他人事のように話を進めている。
彼の視線の先はずっと地面を向いていた。
水「お兄ちゃんもいるんだけど、海外に住んでてさ、」
水「お母さんのところに行くのも、お父さんのとこに行くのも嫌だから、海外にいるお兄ちゃんと暮らすしかないんだ」
桃「……そう…なんだ」
なんと言えばいいのか分からなくて、少し素っ気なく感じさせてしまうような発言しかできない。
水「でもね、僕引っ越す前、もうひとり親友がいたの。生まれてからずぅーーっと一緒にいた、親友が。」
水「その子、僕が引っ越す直前に、”自分を受けいれてくれる人は絶対にいるから、そんな人と親友にでもなれ”って。」
水「だから、僕はないちゃんに声をかけました!!」
桃「でも朝一番にいたからって…」
水「そ、それは…適当に言っただけ!」
ほんとかよ。と言いたいところだったけれど、あの話のあとだから、そんなことは言えなかった。
残された時間は、あと2日。
土曜日と、日曜日。日曜日の深夜にこの街から出ていくらしい。
だから俺は______
桃「ねぇほとけっち。明日と明後日、時間ある?」
____この残された時間、ほとけっちと一緒にバカみたいな思い出を作りに作る。
俺というほとけっちにとって2人目の親友を忘れさせないためにするだけだ。
桃「あ、ほとけっち遅すぎー」
水「ごめぇんないちゃん…今日だけはほんとに眠くてぇ…」泣
桃「それはいつもでしょ…」
土曜日の早朝、彼の家の前で待って早30分。
やっと玄関の扉が開いたかと思えば、あの日と同じようなボサボサ頭によれた服で顔を出してきた。
桃「ほらほら、もう電車の時間過ぎちゃうよ〜?」
水「えぇ〜?どこ行くの〜…」
桃「まだいいません♪」
水「……ひゃ〜い」
水「ねぇないちゃん!あれ見ようよ〜!」
桃「はいはいまた今度ね〜」
水「えぇ〜ちょっとだけ、ちょっとだけだよぉ〜」
電車で移動し、目的地までしばらく歩いていると流石にほとけっちも目が覚めてきたようで、気になったもの全てに興味津々だった。
なんだか保育園の先生になった気分。
桃「はい、着いたよ♪」
水「…ここって、?」
桃「ほとけっち知らないでしょ、ここ結構人気なんだよ〜? 」
桃「水族館♪」
水「……ぇ、えぇ〜!!✨️✨️」
水「ないちゃんこれみて!かわいい〜!!✨️」
桃「そうだね〜♪でももうちょっと静かにしようね、?」
水「ごめんなさ〜い…」
水「あ!くらげだ〜!!✨️」
桃「おい?????」
桃「ほとけっち、これお揃いで買お?」
水「……ぇ、…うん!!!!✨️」
前に好きだと言っていた、水族館へと連れてきた。
“自分の好きな水色につつまれる、幸せ空間なんだ〜”と言っていた。
随分と堪能できたようで、今はおみやげコーナー。
そしてひとつの思い出残しとして、俺からお揃いのキーホルダーを買うことを提案した。
一瞬驚いたような顔をしていたが、すぐにいつもの明るい笑顔を見せてくれた。
もう、何回彼の笑顔を見たかは覚えていなかった。
夜。近くのホテルに止まった。来年行く修学旅行を、気分だけでもほとけっちと感じたかったから。
水「ベッドふわふわだぁ〜♪ 」
桃「朝寝すぎないでよ〜?笑」
水「はぁ〜い…」
水「……で、で!ないちゃん♪」
桃「ん?なに?」
水「好きな人…いるでしょ!」
桃「いませんが?」
水「うぇ〜面白くなぁーい」
水「気になる人も居ないの!?」
桃「いませーん」
水「うそだぁ〜」泣
そんないかにも男子高校生らしい会話を、2人が寝落ちするまで続けた。
桃「ほとけっち、ほとけっち朝だよ」
水「えぇ、?」
桃「….今日が最後なんだからね?だから今日は、ほとけっちの行きたいところ、一緒に行こうよ♪」
水「…そっか……そうだね!♪」
翌朝、案の定ほとけっちは眠たそうにしていたけれど、今日はまだ目覚めがいい方だ。
それから、朝から行き当たりばったりで色んなところを回ったけれど、正直あまり覚えていない。
唯一覚えているものとすれば、放課後何度食べたかも分からないクレープを、またほとけっちと一緒に食べたことくらい。
今日一日は、本当に一瞬ですぎていった。
帰りの電車に乗り、彼の家へ行き、そしてこれから空港へ向かう。
それもあっという間に着いてしまった。
水「ここまでだね」
桃「……うん」
もっと早く、俺から声をかけていれば。
もっとたくさん、一緒に過ごせていれば。
心から、送り出せたのだろうか。
それでも、たった7日間だけでも、ほとけっちの親友と過ごせてよかった。と、俺はおもうしかなかった。
桃「ほとけっち、約束…しよっか」
水「どんな約束…?♪」
桃「俺のこと、忘れないで欲しい。」
水「それはもちろんだよ♪」
桃「また、会いに来て欲しい。」
水「…うん♪」
桃「それから、前の人と、俺、そして、また新しい親友を作ってくること。」
水「…そうだね、僕のことを受け入れてくれる人、探すね♪」
桃「それから…それから…」
俺の目に映る、彼の顔がぼやける。
こんなにも感情的になったのは、いつぶりだろうか。
水「ゆっくりでいいよないちゃん」
水「それと、ぼくもひとつだけ約束事いいかな。」
桃「…うん、?」
水「僕のもうひとりの親友と、仲良くして欲しいな」
水「こんどは三人でお話したいからさ♪」
水「あ、あと!ないちゃんも僕のこと忘れないでね!」
桃「…ぁ、うん、?ぇっと、、え?」
もうひとりの親友、?てか約束ひとつだけじゃなくない、?あれ?っと脳内は少し混乱しているけれど、もうどうでもよかった。
水「はい、次はないちゃんだよ。ないちゃんと僕の、もうひとつの、さいごの約束…なに?」
ひとつ深呼吸をして、口を開いた。
桃「…笑顔で、いて欲しい」
水「…………うん!!♪」
それを最後に、二人はそこで別れた。
お揃いのキーホルダーを大事にかかえながら、心は繋がったまま。
また、俺の大好きなほとけっちの笑顔がみれる日まで。
たった7日間だけのはずだった親友。
それは一生へと、 変わっていた。
コメント
1件
wow…最高ッ!