残業を終えパソコンを閉じる。
カチコチに凝り固まった全身をほぐすように身体を揺らすと、リュックを背負い外に出た。
いわゆる大手勤めだがエンジニアは裏方なので、ほとんどがカジュアルな格好で勤務していた。
今日も大きめのニットにテーパードパンツを合わせている。
生まれもっての金髪も相まって学生みたいだ、と同僚に揶揄われたのを気にして染めようかとも思ったが。
目も金色だし技量を買われて就職した会社だ。
上司も何も言わなかったから、そのままにしている。
ただ、仕事の時はなるべく前髪をあげて撫でつけるようにセットしていた。
それも煩わしく、オフィスを出たところでわしわしと髪をほぐす。
週末だからそのままjpの家に帰る事になっている。
普段はそのまま直行するが、今日は遅くなったからLINEだけ入れる事にした。
黄色のスマホにはjpからのメッセージが届いていた。
『まだ終わらない?』
『ttー』
『さみしいよー』
『おーい』
『tt tt tt ttー』
30分おきに送られてきていたLINE。
寂しい思いをさせているようだ。
〈終わった、今から行くわ〉
♪
『おつかれさま!待ってる!(๑˃̵ᴗ˂̵)♡』
返信の早さと可愛らしい顔文字に笑い、スマホを閉じ歩き出した。
今夜は更に冷えるという、同僚との雑談のことを思い出しながら、星のない空を見上げる。
インナーを引っ張り手首を隠したところで、車のドアが閉まる音がした。
振り向くと、黒い服を着た男が車の横に立っている。
つい先日繁華街で会った、ユウだった。
「…あ」
「…ttさんだよね?ちょっといいかな、相談があるんだ」
「俺に?」
「うん。きみはjpの友達だから、きみに相談したい」
こんな夜に突然現れたユウからの、突然の誘い。
驚いたが、彼はjpの友人だ。
相談ってなんやろ?
jpの会社の事かな?
「なんか飲み食いしながら…てのも気まずいし、家に送るからその道中で話したいな」
もう一度空を見上げた。
冷える夜、疲れた体で帰路を歩くのは気が萎える。
案内されるまま助手席に乗り込んだ。
足元にリュックを下ろしシートベルトを付けながら、運転席で同じようにシートベルトを装着するユウに尋ねた。
「なんで俺がここにいるってわかったん?」
「この前⚪︎⚪︎にいるってじゃぱぱが言ってたから」
あぁ、そういやそうやったな…
あいつ個人情報とか知らんのかいな…
エンジンがかかり、ナビの音声が日付けと時間を告げる。
もうすぐ22時になろうとしていた。
「家どこ?」
「△△、とりあえず駅まで行ってもらえれば」
「ひとり暮らし?」
「まぁそうなんやけど。今日はじゃぱぱと会うからそこまでお願いするわ。 なんならこのままじゃぱぱにも相談できるけど」
「そっか、じゃぱぱのとこに行くんだね。… いいね、あいつといたら楽しいでしょ」
「まぁな…付き合い長いしな」
「じゃぱぱも幸せそうだったよ。きみがいるからだろうね」
「そ、そうかな」
自分達の関係をどこまで話して良いのかわからず、言葉を濁す。
窓の外を流れる景色は週末の賑わいを見せている。
混んでいるから家まで1時間はかかるだろうか。
ほぼ初対面の相手と1時間、車で二人きりなのは耐えられそうになくユウへ話を振った。
「相談ってなんなん?」
「うん…きみにしかできない事」
「少し、眠っててくれるかな?」
「?」
ガバッ
「!?」
後部座席に誰か潜んでいたようだ。
気づいた時には口元を布が覆い、その強さに振り払う事ができなかった。
窓に映る街のネオンを背景に、前方を見つめるユウ。
その横顔に助けを求めようともがいたのを最後に、記憶が途切れた。
コメント
2件
後部座席の人は誰なんだろう🤔モブですかね?ついに⚡️さんが攫われてしまいましたか、、、😇ていうか🦖さんのLINEが可愛すぎて禿げそうです🤦♀️💕