テラーノベル
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商業ギルドで契約を済ませた後、買い物をして、俺の家となった物件へ帰宅。
午後3時の鐘が鳴る中、遅い昼食としてパンをかじりながら、やるべきことを考える。
最低限必要なもののうち、俺が作れない、あるいは作るのが面倒なものは購入してきた。
例えばベッドのシーツ、掛布団、枕、着替えの服といった布製品。
これらは俺が作れないものだ。
厳密に言えば布だって作れないことはない。
特殊木炭魔法加工物質細密チューブや金属を細く延ばしたワイヤーなどで、糸を作ることは可能だ。
しかし特殊木炭魔法加工物質細密チューブは極細。
神力導線として使う極細チューブを百本以上撚ったものでも、糸として見れば極細だ。
そんな糸を布に織れるまで作るとなると、魔力を無茶苦茶消費する。
金属ワイヤーで糸や織物を作るのは、そこまで難しくはない。
しかしそんな糸で織った布だと、間違いなく着心地や触り心地が悪いだろう。
だったら買った方がよっぽどましだ。
逆に言うと、布もの以外は大体作ることが可能だ。
食器類は、大出力神力用絶縁碍子を作るのと同じ方法で土から作れるし、鍋釜類は鉄を使えば簡単だ。
本当はさっさと釣りに行きたい。
しかしどうせなら、リールも作って万全の体制にしてから望みたい。
それに満月は明日だ。つまり大潮も明日。
だから明日じっくり釣り場を確認した後、夕方からソウギョと戦おうと思う。
今日のこれからと明日の日中は、生活基盤と釣り道具の充実にあてよう。
そう言えば、C級に向けての勉強も必要だ。
やるべきことは山ほどある。
食器とカトラリーと鍋釜作りから始めよう。
そのためには材料が必要だ。
鉄と粘土はある程度在庫がある。
しかしどうせなら、ここでしっかり確保しておこう。
この家には庭があるから土の採取は可能だ。
しかし大量に採取するなら、広い場所がいいだろう。
なら海辺に出てみよう。
砂浜なら採取しやすいだろうから。
昼飯のパンを食べ終わった俺は、家の外へ出る。
家の裏側はすぐに防砂林だ。塀があるけれど、魔法で筋力強化して飛び越えれば問題ない。
いや、どうせ今後は毎日海へ行くだろう。
ならばショートカットルートを作ってしまおう。
材料は魔法収納内にある流木と鉄。
魔法収納内で切って組み合わせれば、塀のこちら側用と向こう側用、計2台の梯子が完成。
『釣り場になる防波堤等には、往々にして誰かが持ち込んだ手製の梯子がかかっていたりする』※
前世の釣りの本にはそんなことが書いてあった。
もちろん厳密には違法だろう。
勝手にそんな物を置くのも、そんな場所に立ち入るのも。
しかし、そんな釣り人の「他の人も含めて釣りに便利なように」といった互助精神が面白いと思ったのだ。
この梯子はそんなイメージで作ったもの。
塀の上で向こう側用の梯子を設置する。
そのまま降りて、外側の梯子は魔法収納に収納。
防砂林の松林を抜けると砂浜、太陽が眩しい。
今はそこそこ潮が引いていて、波が来る場所まで50mくらいある。
魔法で海面下の様子を確認。ほぼ砂浜で、キスとかメゴチがいそうな感じだ。
リールで狙えば、いい感じに釣れるだろう。
なら今日か明日にでも、リールを作らないとな。
そう思いつつ砂の採取を開始する。
ふむふむ、ここの砂、なかなかいい。砂鉄や硅砂、長石をいい感じで含んでいる。
つまりは鉄を作るにも、磁器を作るにも最適ということだ。
魔法で分離できることが前提だけれども。
製鉄も磁器作成もある程度は粘土が必要だ。
しかし粘土は、冒険者ギルドの庭で採取したものが残っている。
なのでさっさと家に戻って、作業を開始。
ここからは基本的に魔法収納内での作業になる。
とりあえず海の砂から鉄を含む成分を分離。
これに木炭と少量の粘土を使って、製鉄及び銑鉄。
この辺の作業は冒険者ギルドでもやったし、簡単だ。
そして鉄分を除いた硅砂、長石、そして粘土を粉々にして水を加えて成型。
これを脱水して高熱で焼き固めれば、碍子ではなく食器が完成。
出来たのは白くて透明感がある、磁器の皿各種とコップ。
本当に高価なものとは形状が異なるし、絵付けなんてこともしていないけれど、実用には充分だろう。
鍋は鉄があれば作るのは簡単。高熱にして成型してやるだけだから。
もちろん魔法収納内で、全て魔法を使って作ればの話だけれど。
あとはスプーン、フォーク、ナイフ、包丁ももちろん作成。
包丁は出刃、小出刃、刺身包丁の三種類作った。
本当は包丁はなくても問題ない。
魔法収納内なら、魚をさばくのだって魔法で自由自在だから。
しかし、自分の手でさばく楽しみというものも、釣りのうちだろう。
だからあえて揃えた。
さて、それでは本当に作りたいものの作成作業に入るとしよう。
リール、それもスピニングリールの作成だ。
本当はリールは鉄でなく、軽金属か木炭魔法加工物質で作りたい。
鉄だと重くなるし錆びるから。
ただ軽金属は魔法でも分離と精製が難しい。
木炭魔法加工物質は加工が難しく、修正が効かない。
だからまず、材料が手に入りやすくて加工が容易な鉄で作る。
上手く出来たら、それを見本に木炭魔法加工物質で作る。
そんな二段構えで挑むつもりだ。
イメージは、前世のシマノオ社製ステッラの3000番台。
釣りに行くときのために購入して分解したこともあるので、内部構成は大体覚えている。
死ぬまで釣りに行く暇がなかったので、実際に使用したことはないけれど。
それでも念のため、買い物で購入してきた紙と鉛筆を使って概念図を描く。
確か、ここの軸の保持は……
◇◇◇
やはり精密機械は作るのが大変だ。
気がつくと夕6時の鐘、それでもまだ完成していない。
一応スピニングリールとしては動作する。
しかし動きが今ひとつスムーズさに欠けるのだ。
もう一度分解し直して、歯車を確認する。
分析魔法を使って、歯車のどこにどのくらい負荷がかかったかを読み取る。
もう少し歯車形状の最適化が必要な感じだ。
やはり、いきなり前世のシマノオと同等というのは難しい。
それでも、もう少しはスムーズに動かせるはずだ。
市販品には投入不可能な、圧縮空気魔法による無接点軸受けなんてのまで使っているし。
ここで思い通り動くものが出来たら、同じ形で木炭魔法加工物質製のものを作れる。
何せ木炭魔法加工物質で作ると後の修正がほぼ不可能。
だから重いの覚悟で、まず鉄で作っているわけだ。
もう少し詰めて、それからパンでも食べて寝るとしよう。
細かい作業をして疲れたから、夕食を作るのが面倒だ。
もし出来上がったら、明日このリールに糸をきっちり巻いて、針もつけてセットしよう。
そうしたら、明日の夕方からソウギョに挑戦だ。
※ 防波堤の梯子
日本でも割と事実だったりします。ただしSOLAS条約の改正で港湾管理が厳重になったので、以前よりは少なくなりました。
実際「ここで何人も死んでいる」なんて防波堤の入口にも手製らしい梯子がついていたり、囲ってある金網に人ひとり入れるような穴が開いていたりして……
危ないので無理な立ち入りはやめましょう。本当に。
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